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 時が、止まったようだった。  目の前に広がる光景を、どんなに細かいところまで見逃すか、と目を見開く。  演者が華やかな衣装を纏い、スポットライトを浴びながら広い舞台を所狭しと駆け回る。  観客は大音量で流れる音楽に合わせて手拍子をする。すると、舞台上の出演者が全員で一糸乱れぬダンスを踊る――初めて舞台を観た(すぐる)は、その圧倒的な存在感に、呼吸をするのも忘れ、閉場するギリギリまでその場を動くことができないほどだった。  英にとって衝撃的な出会いであり、その後の意識のすべてを奪っていった演劇は、常に神経を刺激してくれる。  彼が演劇の道に進みたいと言ったのは、仕方がないことだ。  そして、十年経った今でも、あの時見た演劇の主役を演じた俳優が忘れられずにいる。 しかしその俳優――月成光洋(つきなりみつひろ)は、その公演を機に、俳優を引退し、脚本・演出家として、新たなスタートを切っていた。何てもったいないことを、と英は思った。  だが神は月成にいくつもの才能を与えていたらしい、今や月成光洋の舞台は、俳優を目指す者にとって、憧れのものになっている。 勿論、英もすぐにその作品の魅力にひきこまれ、その中の一人になった。 「絶対、月成作品に出てやる」  きらびやかな衣装、まばゆいスポットライトを浴びる瞬間を夢見て。  彼は俳優養成所、5th seasonのパンフレットを握りしめ、決意を口にした。
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