第5章 第1話

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第5章 第1話

 デイリーオークションの会場に、颯斗さんと並んで入る。 そういえば私が佐山CMOと知り合うきっかけになったのも、この会場だったな。 そんなことを考えながら、彼と共にオークションの席につく。  吉永商会の店主、吉永俊彦こと、矢沢映芳氏の作品は、やはり吉永商会からの出品になっていた。 自作の陶器や絵画、小ぶりの彫刻が並ぶ。 「それではこれより、オークションを開催します」  彼の作品群の、最初のロット番号が呼ばれた。 「3万、4万、5万からありませんか? では、5万で56番落札です」  ハンマープライス。 会場から、ぱらぱらと拍手が聞こえてくる。 「では、次へまいります」  競りは順調に進んでいた。 このオークションが終わったら、吉永さんと話をしよう。 今日なら佐山CMOもお城のオーナーも一堂に会している。 彼の商売の主戦場であるオークション会場の主催者もいる場所で、いい逃れは出来ない。  会場スクリーンに、次の作品が映し出された。 矢沢映芳作、皿。 その深い緑のグラデーションがかかった陶器の大皿に、私は突然、意識の全てを奪われた。 「6万円から、7万、8万……」  激しい動悸とめまいに襲われ、佐山CMOの袖をつかむ。 「どうした?」 「あ、あの……、いま、オークションにかけられている作品は、あの人の作品じゃない。おじいちゃんの……、うちのおじいちゃんの作品です」 「えっ?」  彼はスクリーンを振り返る。 「それは確かなのか?」  私がうなずいたのを見届けると、彼はすぐに自分の札を上げた。 「10万、11万」  なんでおじいちゃんの作品を、自分の作品として出品してるの?  意味が分からない。 「12万、13万」  あっというまに、値段がつり上がっていく。 でもこれは、彼の作品じゃない。 「15万、20万!」  会場がざわつき始めた。 佐山CMOは、また札を上げる。 「21万、22万! 23万!」  もう一度札を上げようとした彼の腕を、私は止めた。 「23万! 23万で31番、落札です!」 「おい、よかったのか!?」  私は左右に激しく頭を振った。 違う。 こんなのは間違ってる!  予想外の高値に、会場から拍手が巻き起こる。 私は胸の動悸と呼吸困難に耐えきれず、席を立った。 おじいちゃんの作品を、矢沢映芳の作品として落札したのは、あのお城のオーナー、三浦将也だった。 「あのバカ」  佐山CMOがつぶやく。 会場を後にする私たちを、彼はきょとんとした表情で見送った。
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