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「ちがう! 俺はまだタマゴなんだ!」
彼はジタバタと抵抗していたがしばらくして駆けつけた警察官に両腕を抱えられ連れて行かれた。
私は泣き真似を続けながら、安心していた。
私のせいで露出狂のタマゴが孵化するのを防げたのだ。
この事件をきっかけに、彼がもっとヘビーな変態のタマゴを身ごもったとしても、私の目の前で孵化させようとしなければ関係のないことだ。よもや、これだけのトラウマを植え付けた私の眼前で、そのタマゴを孵化させようなど、彼が考えるはずもないだろう。
よかったよかった。
私は胸を撫で下ろした。
彼が連行され、落ち着きを取り戻すかと思われた校舎裏だったが、警察が現場検証を行うとかで慌ただしさはなかなか消えなかった。
私もとりあえず保健室に移動ということになった。
「さあ、立てるかな?」
女性の先生が優しく私を支えてくれた。身体にダメージはなかったけれど、雰囲気に合わせて私はヨロヨロと立ち上がった。
違う女性の先生が私の脱ぎ散らかした制服を拾ってくれた。校舎裏の地面は日陰により湿り気があった。私の制服は汚れてはしないかと心配になったが、まあ汚れていたら汚れていたで彼の罪が重くなるだけだ、と私は意地悪く微笑んだ。
ふと見ると足元に彼の脱いだものと思われるパンツが落ちていた。深緑の下地に紫色のペイズリー柄が入った、なんとも不気味なパンツだった。彼はノーパンで連れていかれたのか。警察は彼がノーパンだというのに連れていったのだろうか。まあ、変態的犯行を疑われての逮捕だから、ノーパンであっても違和感がなかったのだろう。私はまた、意地悪く微笑んだ。
これも事件の証拠となるものなのかしら。私はじっとパンツを見つめた。見ているうちに、パンツがタマゴの殻のように思えてきた。露出狂のタマゴがその殻を破って出てくるとなれば、破るべき最後の殻はパンツではないかと。そう思えて仕方がなかった。
湿った土の上、不気味なパンツ。露出狂のタマゴの殻。
私はパンツをグッと踏みつけた。
そして足をぐりぐりと動かし、パンツが土にめり込むほどに強く踏みつけた。
「ハンプティダンプティ、誰も元へは戻せない」
パンツは土の茶色がしみ込んで、紫色のペイズリー柄が不気味さを増すばかりであった。
おわり
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