ハンプティダンプティ、誰も元へは戻せない

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 彼は私が何を言おうとしているのかわかっている様子だった。彼が浮かべ続けている笑顔も、ニコニコというよりはニヤニヤと表現する方がふさわしく思えた。  彼の笑顔を見て、ついに喉にあったつっかえがなくなった。 「あの」 「なに?」 「あの、今日初めてあなたを見た時から」  頑張れ私。心のエールが聞こえた。 「続けて」  彼は仁王立ちのまま私の告白を促した。  私はこくりと頷いた。 「あの、今日初めてあなたを見た時から、チャックが開いているなって気づいてて」  勇気ある告白をヤンヤヤンヤと心が讃えた。鼓動が祝福のクラッカーのように激しく打った。  言った。ついに言えた。私の胸は目的を達成した満足感でいっぱいになった。 「朝から気がついていたのに、今言うんだね?」  彼は不満気につぶやいた。  彼の仏頂面を見て、私の申し訳なく思った。 「そ、そうだよね。私に勇気がなかったせいで、あなたは今日というかけがえのない人生の一部をチャック全開で過ごしたんだもんね。それは本当に申し訳なく思っています」
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