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「それは、俺が露出狂デビューした後ならいいよ」
彼がどこかで露出した後、私が彼の仕業かもと皆に言ったなら、彼は犯罪者として扱われてしまうだろう。そこまで考えた上での発言だろうか。まあ、彼が露出狂であることを口止めされていたとしても、彼が犯人だと思われる露出狂の事件が起きたなら、真っ先に彼の存在を警察に教えるつもりではあったが。
「あ、ていうか、」
そう言いながら彼はおもむろにジャケットを脱ぎ始めた。
「今がチャンスじゃん」
彼は鼻息を荒く吹いて、興奮気味に微笑んだ。
私は恐怖を覚えた。彼の腕を振り解いて、小走りに校舎裏の袋小路の奥へと身を寄せた。
彼はジャケットを脱ぎ捨てると、ネクタイを取り、ワイシャツを脱ぎ、その下に着ていた白Tシャツまで脱いで上半身裸になった。
そして私が逃げ場を無くしているのを確認すると、通学カバンからベージュのトレンチコートを取り出した。それを春風にはためかせ、ウットリと眺めた後、勢いよく羽織った。コートの前を閉じると、ボタンを留めずに腰に通してある紐を腹の前で蝶々に結んだ。そして、コートの下から中に両手を入れると、ねっとりとした動作でズボンを脱ぎ始めたのだった。
「あ、こいつ、私でデビューするつもりだ」
こんなに不名誉なことはない。さっき初めて露出狂を見た気でいたが、私が今目の前にしている彼は露出狂の「タマゴ」なのだ。
私が彼のデビューの相手になるということは、私が彼という露出狂を生み出してしまうということなのだ。私が露出狂の「タマゴ」を孵化させるということなのだ。考えていると私の下腹部が不気味に蠢いた気がした。不気味な胎動を感じた。
「デュヘヘへへ」
彼は準備万端だった。
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