ハンプティダンプティ、誰も元へは戻せない

6/10
前へ
/10ページ
次へ
 空手の構えのように腰を落としガニ股で、両方の手は腰の位置で拳を握っていた。その手はコートの腰紐の蝶々結びの端っこを持っていて、左右に開けばいつでもコートをご開帳できるようになっていた。  ヤバい。本当にヤバい。露出狂が生まれてしまう。こんな状況まで進んでしまっては、千の言葉を使っても彼を止められはしないだろう。どうすればいい。どうすれば。  私は辺りを見回した。何か、現状を打破できそうなアイテムを探した。そして、傍らに一枚のブルーシートが落ちているのを見つけた。私はそれを拾い上げると目の前に広げた。一メートル四方の小さなシートであった。  私がこれをかぶって周りを見ないようにすれば、彼の露出狂デビューを潰せるだろうか。いや、無理やり剥ぎ取られて終わりだ。そんなことになれば、強引に自分の裸を見せることに快感を覚えた、より強力な露出狂、スーパー露出狂を生み出すことになりかねない。  非力でか弱い女子である私でも対抗できる方法は、このブルーシートを活用した対抗策は。  私が彼に立ち向かおうと足掻いている間にも、彼は私に少しずつにじり寄っていた。 「デュヘヘへ」 「なに、その笑い方」 「いや、露出狂っぽいかなと思って、前から練習して」  彼の露出狂デビューはかなり前から準備されていたようだった。  彼の腰紐を握る拳に強く血管が浮かぶ。  彼の性癖が解き放たれるのも時間の問題だ。  どうする、どうする、どうする。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加