藍色の、彼に。

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外に出ると、雨は止んでいてコンクリートも少し渇き始めている。下り坂のてっぺんから、遠くの方の街が見える。日は、もう沈んでいた。暗闇にきらきらと、多くの灯が集まって輝いているのが見える。 ゆいかは、少し先を歩く町田が背伸びをしたりポケットに手を突っ込んだりしながら、街灯に照らされるのを眺めた。普段、どのような仕事をして稼いでいるのか、アート作品だけで食べているのかなど、町田について何も聞いていなかった。ゆいかは、町田についてもっと色々と知りたいとも思ったが、彼と会うのは今日で最後かもしれないとも、同時に思った。 町田が振り返って、こう言った。 「砂時計のあと、何作ったら良いか、全然浮かばないんだよね」 ゆいかは、なんとなく黙って一度、ゆっくりと頷いた。 「時間そのものが、人間なんだろうなって思ったら、そこで行き詰っちゃってさ」 町田は、そう話すと彼の身体は足元からゆっくりと土砂のように崩れ出した。ゆいかは、立ち止まり崩れ行く町田を唖然として眺めた。 砂に変わっていく、町田の一部は地面のコンクリートど同化しながら蟻地獄のように吸い込まれていく。 ゆいかは、彼の上半身を抱きかかえ救おうとするが、町田の体はコンクリートに喰われていく。ゆいかも、このままでは一緒に引き込まれてしまいそうである。 『やっと、溺死をまのがれた遭難者でもないかぎり、息ができるというだけで笑いたくなる心理など、とうてい理解できるはずがない』 町田は、とある小説からそのような言葉を引用した。 「俺を、理解してくれ」 血走った目に涙を滲ませながら町田はそう言って、ゆいかの背中に腕を回し道連れにしようとする。 街路樹の銀杏の若葉と、青々とした実が生っているのを街灯の明かりが照らしている。人は来ないが、風が少し吹いていた。ゆいかの背中に腕を絡めて泣きつくように、町田はしがみつく。 ゆいかは、目を瞑り町田の抱擁に身を委ねた。砂が、二人をゆっくりと飲みこんでいく。 【終】
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