5人が本棚に入れています
本棚に追加
雨の降らぬ町
焼けつくような日差しに目を細める。拭ったそばから溢れ出る汗が首筋を伝う。少しの風が吹くと、足元の乾涸びた雑草がさわさわと揺れた。
「もう着いてもいい頃じゃないか?」
「その筈なんだけどなぁ」
「俺はもうステーキになりそうだ」
相棒は俺の冗談なんて聞こえなかったかのように「この辺だと思うんだけどなぁ」と言うだけだった。多めに持ってきた水は半分も飲んでしまった。まだ目的地に着いてすらいないのに飲み干すわけにはいかない。
「あ! あそこじゃないか?」
相棒が指差した方角に目を向けると、乾いた荒野に大岩がポツンと佇んでいた。あれが? 確かに人が入れそうな穴が空いているようにも見えるが……
古代の碑文が刻まれた洞窟があると言うからここまで来たのに、まさかあれじゃないよな。
「お前にはあれが洞窟に見えるのか」
「でも他にそれらしい場所もないだろ。違ったって、日陰で休めるじゃないか」
確かに、これ以上彷徨えば本当にステーキになりそうだった。渋々ですよ、という顔をして俺は相棒のあとをノロノロと追う。
「今すぐ川にダイブしたい」
「川なんて何処にもないだろう」
「雨でも降らねえかな」
「無理だね、絶対に」
相棒が断言するのには理由があった。
この地には雨が降らない。
もう、何百年も昔から。
最初のコメントを投稿しよう!