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大岩に着くと、いい意味で予想は裏切られた。空いた穴は地下深くまで続いていたのだ。風化はしているが、明らかに人工的に作られた階段に心が躍る。
内心ガセだと決めつけていた碑文の存在に、希望の光が差し込んだ。今回は当たりかも知れない。
足元をライトで照らしながら慎重に下へと進んでいくと、俺はある場所で歩みを止めた。そこは狭い階段から開けた空間へ出る、ちょうど境目のようだった。
「何かあった?」
「ここに何か填めていたような、跡があるんだ。もしかしたら扉があったのかもしれない」
「扉かぁ。地下の貯蔵庫として使われていたのか、それとも……」
相棒がブツブツ言いながら灯りをセットして回る。下りきった場所は人が一人生活できるほどのスペースしかなく、避難壕ではないようだ。やはり貯蔵庫なのだろうか。
俺が考えても限界がある、こういうのは相棒に任せよう。「雨の降らぬ町」を民俗学的観点から解き明かすんだと遠路遥々やって来たのだから、きっと何か掴んでくれるに違いない。俺は自分の役目に集中することにした。
古代文字の解読が仕事だと言うと、「財宝のありか」だとか「王家の秘密」だとかを期待されるが、よく考えて欲しい。君は大切な時計やらネックレスの保管場所を文字に残しておくのか、わざわざ謎めいた文にして?
古代文字も同じだ。誰それの愚痴やら、日常の何気ないメモが殆どだ。しかし、俺はそこにこそロマンを感じる。
この世界で彼らが確かに息をして、生きていたのだという証。時を超えてそれを読み解くことこそが、俺の生き甲斐と言ってもいい。
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