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「悠生」
グラスに赤い酒を注いで戻って来た ウイカに
「ん?」と、顔を向ける。
あの時の眼だ。仲谷を寝室に誘った時の...
視線が 足の形に沿ったスカートに落ちた。
結露の水の染みは、もう消えている。
「“誘ってる” とでも、思ったか?」
ウイカの顔に 眼を上げた。
緑がかった琥珀の眼は、さっきまでの ウイカの眼差しとは...
「誰だか知らねぇけど、お前なんかに 初歌をヤラせるくらいなら」
甘ったるい匂いのする 赤い酒を呷った そいつは
「な?」と 嘲笑った。
口を開けない俺に
「初歌には、“どこかの御曹司でも乗っ取れ” と 言っておいた。
お前が “悠生じゃない” ってことも説明してな」と、手の空のグラスを、俺の前にあるグラスに 軽く当てて置いた。
「いつ... 」
辛うじて聞けたのは それだけだった。
ウイカ... 仲谷は
「ここに来る前だ。初歌の部屋でな。簡単に騙されたな」と笑い、ソファーを立つと
「俺、実は借金あるんだわ。相当の。
じゃあ、あとは よろしくな」と、部屋から出て行った。
******** 「パチパチ」了
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