5/7
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
瞬きに音はない。自分でしても聞こえない。 でも、宙に浮く両目が目蓋を下ろすと、一瞬その目が見えなくなって、また開かれた時に、パチ... と音が聞こえるんだ。 アレを見た時は、これまでの人生で 一番 ゾッとした。 シェーバーを投げ捨てて 飛び退(ずさ)ったくらいだ。 飛び退っても、鏡に映る両目の視線は 俺を追っている。 こんな事 ある訳ない... これは幻覚だ。疲れ過ぎてる... と、鏡が映す両目の方向に、恐る恐る振り返ってみると、そこに両目があった。 鏡の中に居る訳じゃない。 こいつ、会社でも コンビニでも、寝室でも... とにかく離れたくて、開けっ放しにしていた背後のドアから リビングへと逃げ込んだ。 両手も膝も震えていて、鼓動が狂って()せたりもしながら。 それでも何とか、寝室のクローゼットを開けて 部屋着を脱ぎ散らかしながら着替えると、スマホとカバンと、ネクタイを引っ掴んで 外へ出た。 引っ掛けていただけだった靴の(かかと)に 自分の踵を収めながら、まだ震えてる手で 鍵を掛けて、会社に向かった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!