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「してないって、仕事しか。
でも、中身は “俺” じゃないかもよ」
「もう いいって」と笑う横顔が かわいかった。
「ちょっと これ洗って、私は甘い方にするね。
話 聞いてて、どっと疲れちゃったし」
グラスを持って ソファーを立った ウイカは、キッチンの方へ向かった。別の酒に変えるようだ。
信じねぇよな、やっぱり。
両目だけになった俺は、洗面台の下で笑っている “俺” に
『俺も、今の あんたみたいになってたんだよ。
両目に取り憑かれててさ。
身体も 生活も、これまでの “俺” も、全部 乗っ取られたんだ。
さっき 俺がやったみたいに、鏡の前で、眼に両目を重ねられてな』と 話し始めた。
『俺を乗っ取った そいつも、同じように 両目に乗っ取られたらしい。
そして、元の身体には戻れない。
そいつも “試したが無駄だった” と言っていた。
俺も試したけど、“自分の身体” の前には立てねぇんだよ』
“俺” になった そいつは
『それで、俺に気づいた お前に近づいたんだ』と 続けた。
『聞こえたんだろ?
パチパチ ってさ。瞬きの音が』
そう聞かれても、何も答えられなかった。
口もなく、頭もないから頷けない。
出来るのは、瞬きだけだ。
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