見てるだけ

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ぼくは、薄暗い病室の、白いベッドに横たわるヒデトの枕元に立った。 「また、会えたね」 耳元で囁くと、ヒデトはびくりと体を強張らせ、恐る恐る目玉を動かし、視線を宙に泳がせた。 「ぼくだよ。エイスケだよ」 ぼくの姿を認めたその瞳が大きく見開かれ、恐怖に揺れている。 ヒデトのそんな表情が可笑しくて、ぼくは思わず吹き出した。クラスのみんなにも、この顔を見せてやりたい。 こうしてヒデトと喋るのは、随分久しぶりのことだった。あれからもう、一年以上が経っている。 その日の放課後、ぼくたちは河川敷の広場に集まっていた。 たまたま予定していた塾の授業が休講になったヒデトが、気晴らしに数人のクラスメイトを呼び出したのだ。 前日の大雨で川は増水し、勢いを増していた。 親や先生からは、川には近づかないようにと注意を受けていた。 最初に土手を降りたのは、ヒデトだった。面白半分で、増水した川面を覗き込んだ。 ヒデトに呼びつけられたクラスメイトたちは、度胸だめしのように、ひとり、またひとりと降りて行く。 誰もヒデトには逆らえない。もちろんぼくも。 川面を覗き込もうと屈んだ瞬間、背後から鈍い衝撃があった。 威嚇のつもりだったのだろう。皆の注目を浴びたかったのだろう。さすがのヒデトにも、ぼくを殺すつもりはなかった。 けれど、ぬかるんだ土に足を滑らせて、ぼくは大きくバランスを崩してしまった。
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