見てるだけ

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音楽の授業中、リコーダー演奏の課題が出された。 好きな者同士でペアを組み、高音パートと低音パートをそれぞれ一回ずつ、交互に練習してくださいと、音楽の授業を担当する河合先生からの指示があった。 この日出席していた生徒の数は奇数だったから、一人余りが出ることになる。 もちろんそれは、ひろちかだった。 先生は、ひろちかがひとりでおろおろしているのは、彼のシャイな性格が原因だと考えた。 「誰か、もう一度ひろちかさんとペアを組んでくれる人はいませんか?」 もう一度リコーダーを演奏することくらい、なんてことはない。だけど、みんなヒデトの視線を恐れていた。 教室内は、しんと静まりかえった。 いたたまれず窓の外にちらりと視線を移すと、校庭を囲むフェンスの上に、数羽の鳩がとまっているのが見えた。 空は高く澄んでいる。 いつだってぼくは、あの自由な鳩が羨ましかった。この息苦しい教室から飛び出して、広い世界で羽ばたける日を、ずっとずっと夢見ていた。 真っ直ぐに手を挙げ立ち上がり、重たい沈黙を打ち破ったのはヒデトだった。 「僕で、よければ」 先生は感心したように頷いて、ありがとうと笑顔を向けた。 ヒデトの残酷さに、僕は思わず身震いをする。
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