見てるだけ

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秋の運動会の目玉は、今年も恒例のクラス対抗リレーに決まった。 クラスの全員が必ず一度は走者になる。 5年2組の足を引っ張ったのは、ひろちかだった。彼は、運動がからっきしダメだった。 「あーあ。ひろちかさえいなければ2組は優勝なのになあ」 練習後、ひろちかが体操着を着替えているすぐ側で、ヒデトは声を張り上げた。 この時間、先生は職員室に引き上げているから、裏面のヒデトが顔を出す。 偉そうに腕を組み、机の上にどさりと乱暴に腰かける様は、猿山のてっぺんにのさばるボス猿を思わせた。 「た、たしかに」 取り巻きの一人が慌てて調子を合わせる。 聞こえていないはずはないけれど、反応したらしただけ嫌がらせがエスカレートすることを心得ているひろちかは、無表情のまま淡々と着替えを進めた。 「おいお前、耳ついてんの?」 だけどヒデトは容赦なかった。 ぼくは知っている。 昨日返ってきた彼の模試の結果がまた、思わしくなかったこと。それを、母親から強く咎められていたことを。 つまりその日の彼は、いつにも増して虫の居どころが悪かった。
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