糖度10

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「…っおい、待てよひな。」 俺の足の速さ何てたかがしれて、すぐに追いかけてきた綾に腕を捕まれた。振りほどこうとしても当然びくともしないから、諦めて力を抜く。 「…何でもないから。大丈夫だよ。」 「そんな顔して大丈夫な訳ねぇだろ。」 俺の言葉に間髪を入れずに、綾が口を開く。 綾は少し周りを見回した後、俺の手を引いて近くの空き教室に足を踏み入れた。 「…何があった?誰かになんかされたのか?」 少し早口で尋ねてくる綾が、俺の顔を覗き込もうとしてくる。顔を見られたくなくて、必死で俯かせていた俺の顔に綾の手が伸びてくるのがわかって。 「…優しくしないでよ、!!」 思わずその手を振り払ってしまった。 「……ひな?」 驚いたように目を見開く綾の顔。 …そう綾はいつだって優しいんだ。 俺が泣いてる時、困ってる時はいつだって手を差し伸べてくれる。…だからさ、だから、 「…綾が俺と付き合ってるのは優しさ?」 「…は?」 「…それとも同情心かな、」 自分で発した言葉に、自分で傷ついて。 余計に流れそうになった涙を、押し殺すように口を開いた。 「…番になるつもりもないのに付き合ってるんだから、きっとそうなんだよね。」 「…ちげぇよ。俺は、」 「いいよもう、」 もう俺と付き合ってくれなくていいよ、そう言おうと思ったのに。 喉に張り付いたその言葉は、そのまま出てきてくれなくて。何とか声を絞り出そうとしたその瞬間、 「だから、違うって言ってんだろ!!」 教室中に響いた綾の声に、思わず目を見開いた。 「…っ、わりぃ、でかい声出して……」 綾が自分の声に自分自身で驚いたような顔して、苛立たしげに頭を搔く。そしてそのまま俺の方に目をやると、そっとその手を伸ばした。 「…泣かせて、ごめん。……俺のせいだな。」 綾の手がやんわりと俺の目元に触れ、少し怯えたような手つきで涙を拭った。 その綾の顔が、俺よりも酷く辛そうな顔をしているから。俺はされるがままの状態で、綾を呆然と見つめていた。 「……俺は別に、ひなのことが可哀相だからとか、同情心で付き合ってるわけじゃない。…その、だから、」 ゆっくりゆっくり俺の顔から綾の手が離れていき、それに同調するように綾の視線が床へと下がっていく。 「…俺はひなの彼氏になりたかったから、俺自信の意志でひなと付き合ってるんだ。」 綾の黒髪から覗く耳は、真っ赤だった。
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