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「…っおい、待てよひな。」
俺の足の速さ何てたかがしれて、すぐに追いかけてきた綾に腕を捕まれた。振りほどこうとしても当然びくともしないから、諦めて力を抜く。
「…何でもないから。大丈夫だよ。」
「そんな顔して大丈夫な訳ねぇだろ。」
俺の言葉に間髪を入れずに、綾が口を開く。
綾は少し周りを見回した後、俺の手を引いて近くの空き教室に足を踏み入れた。
「…何があった?誰かになんかされたのか?」
少し早口で尋ねてくる綾が、俺の顔を覗き込もうとしてくる。顔を見られたくなくて、必死で俯かせていた俺の顔に綾の手が伸びてくるのがわかって。
「…優しくしないでよ、!!」
思わずその手を振り払ってしまった。
「……ひな?」
驚いたように目を見開く綾の顔。
…そう綾はいつだって優しいんだ。
俺が泣いてる時、困ってる時はいつだって手を差し伸べてくれる。…だからさ、だから、
「…綾が俺と付き合ってるのは優しさ?」
「…は?」
「…それとも同情心かな、」
自分で発した言葉に、自分で傷ついて。
余計に流れそうになった涙を、押し殺すように口を開いた。
「…番になるつもりもないのに付き合ってるんだから、きっとそうなんだよね。」
「…ちげぇよ。俺は、」
「いいよもう、」
もう俺と付き合ってくれなくていいよ、そう言おうと思ったのに。
喉に張り付いたその言葉は、そのまま出てきてくれなくて。何とか声を絞り出そうとしたその瞬間、
「だから、違うって言ってんだろ!!」
教室中に響いた綾の声に、思わず目を見開いた。
「…っ、わりぃ、でかい声出して……」
綾が自分の声に自分自身で驚いたような顔して、苛立たしげに頭を搔く。そしてそのまま俺の方に目をやると、そっとその手を伸ばした。
「…泣かせて、ごめん。……俺のせいだな。」
綾の手がやんわりと俺の目元に触れ、少し怯えたような手つきで涙を拭った。
その綾の顔が、俺よりも酷く辛そうな顔をしているから。俺はされるがままの状態で、綾を呆然と見つめていた。
「……俺は別に、ひなのことが可哀相だからとか、同情心で付き合ってるわけじゃない。…その、だから、」
ゆっくりゆっくり俺の顔から綾の手が離れていき、それに同調するように綾の視線が床へと下がっていく。
「…俺はひなの彼氏になりたかったから、俺自信の意志でひなと付き合ってるんだ。」
綾の黒髪から覗く耳は、真っ赤だった。
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