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今日も5曲歌い終え、帰り支度を始める。
歌っている間、女の子たちは動画や写真を撮っていた。そして、今彼を囲んで自撮りをしている。
「四葉、写真撮ろうか?」
「ううん。いい」
本当は欲しいけど…。
あの子たちと同じとは思われたくなかった。何の得にもならないプライドが欲を上回っていた。
写真を撮って満足した女の子たちが駅に向かって歩いて行く。
ギターケースを背負った彼と目が合った。
私に向かって軽く頭を下げる。
「どうも」
「あ、どうも」
急に声をかけられておうむ返しをしてしまった。
「次は明後日。大体週2火、木なんで…」
そう言った後、軽く咳をした。
「…これ‼︎良かったら」
バッグから取り出したのど飴を袋ごと差し出した。
「…じゃ、一つ貰います」
彼が、不恰好に破られた袋の口から個包装のキャンディーを一つ取り出した。
「ダチョウキャンディーって言うんだ。ヤバいね」
そう言って笑った。
「ありがとう」
歩道橋を降りて行く彼を見つめていた。
彼の「ありがとう」がリフレインしている。
足元で散らばったダチョウキャンディーを拾い集める有美子の声は、私には聞こえていなかった。
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