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第一話:はじまり
私はおぼつきながらも、必死に走っていた。
皆が楽しそうに水遊びをしているなかで、私は走っていた。皆に追い付きたい。皆と遊びたい。
でも、私の身体は思うようには動かず、歩幅は狭く、走る息はあがり、やがて呼吸をすることも難しくなった。
そのうちに、平坦な道で足がもつれ、私は地面に突っ伏していた。
その後の事はわからない。
そうして気づいたら、私は病院のベッドの上だった。
……またか……
私の心にあった気持ちは、諦めに似たものだった。
私はあと、どれくらい生きられるのだろうか……。
私の脳裏には、以前に病院で知り合った友人の顔が思い浮かんでいた。
面会時間が限られているなかで、お互い時々会う程度だったのだけど、同じ境遇だったから、いつしかよく話すようになっていた。
私たちは、お互いの体調の良い時には、看護師さんが毎日運んで来てくれる、なんて事ないお茶をポットに入れて、それをもって中庭で好きなアニメの話やカードゲームをして、お茶会を開いて楽しんでいた。
時には神妙な顔をして、昨夜みていた夢の話をすることもあった。
夢と言うには、あまりにもリアルなあの夢。
何度も何度もみているうちに、少しずつ展開していくあの夢。
あの時は、私が先に退院したのだけど、次に入院した時には、誰に尋ねてもあの子の名前はもう誰からもあがることはなかった。
元気になったのなら、元気になったとどこからか知らせが入るはずだ。
だけど、何も……。
アセビ、どうしてるのかな……。
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