3人が本棚に入れています
本棚に追加
「ありがとうございました」
最後の客を見送り、伊織が店のドアに掛かるプレートを「CLOSE」に変えた。
そして、う~んと手を頭の上に上げて伸びをした。
ふと前を向くと、樹が嬉しそうに微笑んだように見えた。
「樹クン」
「な、何ですか?」
ニヤニヤしながら話しかけてくる伊織に、樹は警戒しながら返事をする。
「何かいいことでもあったの?」
「別に。何もないですよ」
「ふ~ん、でも幸せそうな顔してるよ」
軽く店の片付けをしながら、いつものように会話を交わす二人。
「そりゃあ、仕事も終わったし、家に帰れますから」
「まぁね。でも、それだけじゃないだろ?」
「そんなことはないです」
ふいっと顔を背けたが、伊織には通用しないらしい。
「来週だったよねぇ結婚式」
「そうですね」
冷めた表情でさらっとかわしたつもりだが、樹の心の奥はやはり少し騒がしかった。
「いよいよキミと汐里ちゃんも夫婦かぁ。めでたいなぁ」
「まぁ、既に一緒に住んでますので。そんな急に何も変わらないですよ」
「そんなことは無いだろう?とにかくめでたい」
嬉しそうな伊織を横目に、樹はロッカールームへ入り、着替え始めた。
伊織はいつもよく見ている。
バーテンダーよりも、どちらかと言えば探偵の方が向いているのではないかと樹は常々思っていた。
「じゃ、お先です」
お疲れさまでしたと言って、樹は裏口から帰っていった。
最初のコメントを投稿しよう!