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助けしは
「かま、ど、に……火を……っ!」
希望の光たる雪治が負けてしまうのではないかと、そうなれば次は自分たちが同じように絞め殺されるのではないかと、恐怖に震えているお夏の両親に、雪治が苦しげに指示を出す。腹に食い込む帯が内臓を潰しているのか、口から血を吐いたが神に授かった超回復で壊れる度に回復しているようで、雪治は何とか三途の川を見ずに済んでいた。
お夏の母親が体の震えで転びながらも竈へと走っていく。やはりこの時代の人は強いと雪治は目を細めた。彼女が火を点けるのを止めようと雪治の左腕の拘束を解いて彼女に向かって伸ばそうとした帯を、雪治が力いっぱい掴み血の垂れる口角を無理矢理上げて笑ってみせる。
「腕の拘束解いてくれて助かるよ。そう焦らず、火がつくまで俺と握手でもしていよう」
燃やされるのを嫌がって酷く抵抗していた帯は、雪治さえ殺してしまえば何とかなると考えたか、再び強く強く雪治に巻き付く。まさか帯自身と同等以上の回復能力があるとは思っていないようだ。
どれだけ締め付けても雪治は血を吐くだけで死にはしない。そのうち出血多量になるかと心配していたが、神の与えた回復は傷を治すだけではないらしい。ただ痛みと苦しみが与えられるだけなら耐えられる。抵抗するということは帯は布らしく火に弱いのだろう。雪治には勝機が見えていた。
「で、できました!」
雪治が時折霊力で苦痛を与え返しながら帯と捕まえ合っている間に、震える手でお夏の母親が竈に火を点けた。竈から遠ざかろうと雪治の拘束を解いた帯を、しかし雪治が逃すわけもなく。枯渇しかけている霊力のほとんどを帯に叩き込み、苦痛で動きの鈍くなった帯を引っ掴んではそのまま自分の腕ごと竈の火の中に突っ込んだ。
「ぐっ……!」
熱くて熱くて痛くて、雪治はすぐにでも手を離してしまいたかった。だが、帯は引火した今も依然として暴れ回っている。ここで手を離しても一度引火した火はいつか帯の全身を焼くかもしれないが、その前にこの家のどこかに火のついた帯が身を当てて火事になる可能性も高い。腕が焼ける痛みに嫌な汗と生理的な涙が流れるのを感じながらも、雪治は意地でも帯を離すわけにはいかなかった。
妖となっているからか、帯は簡単には燃えきらないようだ。火が全体に回っても尚、帯は竈から逃げようと藻掻いていた。そうして死を察すると最期の力を振り絞り、雪治の首に巻き付いてその頭を竈の中へ引っ張り込もうとした。どうやら勝てないのなら道連れにしてしまおうという魂胆である。
「ひいっ!」
もちろん雪治もそれには抵抗していて頭が竈に入るのは阻止しているが、引火している帯が首に巻き付いている光景はなかなかの衝撃で、お夏の母親は悲鳴を上げて腰を抜かした。しかし、この時代に強かったのは何も女性だけではない。今度は父親が走ってきて雪治の首に巻き付いている部分にだけ水をかけ、火が再び回ってこないうちにと必死に帯を雪治の首から解こうとする。
「くそ、くそっ!離れろ!解けろ!!」
死にかけとは言え妖の力だ。普通の人間である彼がどれだけ頑張っても雪治の首から帯が解けることはない。彼の健闘虚しく、雪治は帯による絞首で意識が朦朧としてきていた。濁る意識の中、雪治は天晴大御神に紹介された神の中に竈火大神という今の状況にぴったりな神がいたことを思い出す。
首から外れないのなら、意識を手放す前に一気に高火力で端から端まで焼き尽くしてしまえ。そう考えた雪治は心の内で、己の愛しているらしい神に呼びかける。
(竈火様、竈火様。竈火大神様。あなた方の愛する神子からのお願いです。この往生際の悪い帯を端から端まで消し炭にしてください)
願いが届いたらしく、ぼっ、と音を立てて竈の火が大きくなったかと思えば、瞬く間に帯を炭も残らぬほど灼き尽くした。だが調整が下手なのか張り切り過ぎたのか、竈の火が大きすぎて家も危ないほどだ。雪治は絞首が解かれて一気に吸い込んでしまった空気で咳き込みながら火を睨む。
「やり、すぎ……っ、げほ、です……!」
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