<7・しゃせいかい。>

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<7・しゃせいかい。>

 二階の自分達の教室と三階の図工室を探すのは、けして難しいことではなかった。  というのも、この二つで探せる場所の候補があまりにも少なかったからである。二階の教室の場合、稚奈が安全にものを隠しておけるような場所は本人の机の中か、あるいはランドセルを入れていたロッカーくらいしかない。そして、机の中は最初に封筒を見つけた時、ざっと探索した形になっている。とすれば、残る候補は彼女のロッカーくらいなもの、だ。  案の定、ロッカーの奥に黄色いメモが貼り付けてあった。書かれていた文字は“ン”。これにより、二枚目のメモが夕焼けの夕ではなく、カタカナの“タ”であった可能性が少しばかり上がったことになる。  「ランドセル入れてるロッカーって、実質本人にしか掃除できないもんな。ランドセルどけないと、このメモも見えないし。何かを隠すにはうってつけだったわけだ」 「だな」  次。図工室。  ここの探索が何故簡単だったかというと、単純明快。鍵がかかっていて中に入れなかったからである。  稚奈は図工も大好きだった。写生会でみんなで絵を描いた時、一番上手かったのが彼女である。あれは今年の春のこと。みんなで校舎の絵を描いたのだが――。 『ツッコミどころ多すぎませんか、二人とも?』  稚奈ちゃんはその可愛らしい顔に呆れた色をいっぱいに乗せて告げたのだった。 『まず、鶴弥くん!なんで校舎の真正面に座っちゃったんですか。のっぺりしてて、遠近感もクソもないじゃないですか!粗方、写生会の途中で神楽ちゃんとお喋りしてて、適当に座っちゃったんでしょ。色塗りもいい加減すぎ!頑張ればちゃんと上手く描けるのに勿体ない!』 『だ、だって神楽がよぅ……』 『言い訳無用です!ふんっ!』  彼女はお淑やかなようでいて、言うべきことははっきり言う性格である。特に許せないのは、“頑張れば出来ることを頑張らなかったこと”であるようだった。実際、鶴弥の場合はあたしほど不器用なわけじゃない。お喋りと外遊びにかまけて(そりゃ、座学ではなく外に出られた時点で、外遊び大好きな鶴弥は楽しかったのだろうが)手抜きの絵を描いただけである。本気を出せばきっと、もっとまともな絵が描けたことだろう。  で、あたしの場合はどうだったかといえば。 『稚奈ちゃんは、その……』  明らかに、稚奈が狼狽していた。その理由は。 『パースが冒涜的な狂い方をしてるのも、タコ人間が踊り狂ってるのも、窓から飛び降り自殺してる人が大量発生してたり木の上から髪の毛が狂ったように降り注いでるのもまあ……こ、個性的だから仕方ないと思います』 『ねえなんで狂ったって三回も言ったの?あと露骨に目を逸らすのやめて頂けます?』
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