<1・ふとうこう。>

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「そういう正論すぎるツッコミはいらん!」 「ふげっ」  あたしは思わず、侑李の小さな頭にチョップを決めていたのだった。この優等生め、と腐りたくなる。実際、一緒に遊ぶことも少なくないこの四人だったが、見事に頭良い組と頭悪い組に分かれているのだった。あたしと鶴弥が完全に脳筋タイプで、侑李と稚奈が頭脳派タイプ。学年がここまで違うというのに、あたしは時々三年生レベルの勉強がわからなくなるのでまあお察しである。 ――ほんと、稚奈ちゃんが不登校になる理由なんて、思いつかないんだけどな。  あたしはちらり、と窓の外を見た。  二月。  校庭の桜の木も、だいぶ蕾が膨らんできたところだ。お別れ会は盛大に、みんなでのお花見で締めくくりたいと言っていたのは稚奈である。このままでは、そのお別れ会の相談さえままならない。いかんせん、稚奈は携帯電話もまだ持っていないのだ。  今日は気温も比較的暖かく、窓から入ってくる風が心地よい。抜けるような青空。朝聞いた天気予報によれば、少なくとも今日は雨の心配がないとのことである。外で遊ぶには絶好の日に違いない。――だからこそ、稚奈も一緒にいればなあ、なんてことを思ってしまうわけだが。 「実はあたし、稚奈ちゃんの家まで行ったんだよね」  ぐでー、と机に突っ伏して言うあたし。 「そしたらさあ、だーれも出てこなかったの。居留守だったのか、それとも本当に不在だったのかわかんなくって」 「あー、あの家親が共働きだし、普通に不在もあるのか」 「そうそ。だから、事情を訊くにも訊けなくてさ。あたしが“鶴弥の恥ずかしい秘密を教えてやるから出ておいで!”って叫んでも出てこなかったんだから、マジで不在だった可能性大だ!」 「おい神楽?お前何言っちゃってんの?ねえ何言っちゃってんの?」  青ざめる鶴弥。顔を上げて、んべ、と舌を出すあたしである。  稚奈ちゃんが、鶴弥のことをひそかに慕っているのは誰の目から見ても明らかである。なのに、当の本人だけが気付いていないのだ。自分の鈍さを呪うがいい、と意地悪なことを思う。 「恥ずかしい秘密ってなんだ、言え、言えー!」 「わ、ちょ、揺するな揺するな!」  パニクった鶴弥が、あたしの肩を掴んで揺さぶってきた。その途端、手に持っていたサッカーボールが勢いよくすっとんでいくことになる。言わんこっちゃない。思い切りはねたボールは、近くに置かれていた机と椅子に激突し、もろにひっくり返してしまった。ばったーん、と大きな音がする。
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