<7・しゃせいかい。>

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 小学校一年のうちから中学受験の準備するの!?と思わなくはないが、少なくとも彼女の学校では当たり前のことであったらしかった。中学受験の進学率の高さをアピールポイントにするような学校であったらしい。  だから授業についていくのが大変で、一年生からかなり苦労させられたらしい。でも、稚奈が一番嫌だったのはそこではない。難しい勉強、受験を意識したライバルたち――その中でいつも空気が張り詰めていて、とても仲良しの友達を作るような雰囲気ではなかったことだった。 『前の学校では、表向きニコニコしてて仲良くしてても、みんなライバルって方が大きくて。……影でクラスメートを見下して悪口言ったり、蹴り落とそうとしてる子が、同級生にも下級生にもたくさんいたんです』  苦しそうに眉を寄せて言った稚奈。 『学校の校舎の裏。階段の下。教室。屋上。トイレ……どこに行っても、誰かの悪口が聞こえてくる。酷いと誰かを虐めてる現場も見るんです。私はそれが嫌で嫌で。いつ、私の悪口が聞こえてくるかと思ったら気が気じゃなくて。自分が直接虐められてるわけじゃなくても、毎日すごく辛かったんです』 『そうなのか……』 『稚奈ちゃんは受験組じゃなかったのに、虐められそうだったの?』 『受験組じゃないならないで、みんなの空気に入れないみたいなところもあったんです。お前は自分達の仲間じゃないだろ、苦しみなんてわからないだろ、みたいな。だから一年生の時は、まともに友達も作れなくて孤立気味でした』  その後父親が会社のパワハラを契機に退職。脱サラして、祖父がやっていた牧場を手伝うことになり。正直なところ、稚奈はほっとしたと言うのだ。 『田舎の、って言ったら馬鹿にしてるように聞こえるかもしれませんけど。とにかく都会じゃない学校なら、きっと人と人との距離も近いし、仲良くできるだろうなって。そうは思ってたんですけど、でも。……いざとなったら、みんなと遊ぶのが怖くなっちゃって』 『なんでだよ、あたしも鶴弥も誘ったのに』 『ドッジボールだと、ボールにすぐ当たる子はチームのお荷物になる。サッカーだと、ボールを追いかけることも守りに行くこともできない子は邪魔なだけになる。私はスポーツが全般的に得意じゃないから……もし足を引っ張ったら、それで決定的に嫌われちゃいそうで。一緒に遊ぶ前からそれを怖がって、仲間に加わることができなかった、というか』 『稚奈ちゃん……』  その気持ちは、わからないではない。何度も遊んで互いを理解しているならともかく、初見の相手である。最初の印象が肝心だ。スポーツをやって足手まといになり、イメージを下げてしまうのが怖いというのは理解できなくはないことだった。  あたしは本当に馬鹿だった、と改めて悔やんだものである。稚奈ちゃんの気持ちも知らずに、お高く留まっているなんて差別したりして。
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