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「あーあ……」
それは、稚奈が使っている机だった。侑李があきれ果てた顔でボールを拾いに行く。
「下の階にめっちゃ響いたよこれ。先生に叱られないといいね、鶴弥」
「何故俺にピンポイントなんだ」
「教室でバカ騒ぎするの、鶴弥か神楽しかいないでしょ。僕は基本何やっても叱られないもんねー。日頃の行いってやつう?」
けらけら笑いつつも、律儀に椅子を戻す侑李。鶴弥は言い返すこともできず、レモンを口に突っ込まれたような顔をしている。しれっとあたしの方にも流れ弾が飛んできた気がするが、とりあえず聞かなかったことにしよう。
「ん?」
ふと、稚奈の椅子を戻していた侑李の動きが止まった。彼は何やら稚奈の机の中を覗き込んでいる。
「どしたあ?」
あたしがぐいん、と首を傾けて尋ねれば、彼は。
「いや、なんか……机の中に変な紙が入ってるんだけど」
「かみい?」
「うん」
がさがさがさがさ、という音とともに侑李が机の中から何かを引っ張り出す。それは、お道具箱のすき間にねじ込まれていたものであるようだった。あたしは眉をひそめる。ただの紙ではなく、わざわざ封筒に入れてあると気づいたからだ。
それも、手紙を入れるような可愛らしいものではない。大人が大事な書類を郵送する時に使うような、細長い茶封筒なのである。
「それ、大事なもんなんじゃないのか?勝手に見ていいの?」
封筒の中を覗き込む侑李に、あたしは一応声をかける。しかし彼は、そりゃそうだけど、と言葉を濁しつつ中に指を突っ込んでしまった。
「お金じゃないみたいなんだよね、これ。……それにひょっとしたら、稚奈ちゃんが学校に来なくなった理由がわかるかなあって思って」
彼の手が引っ張り出したのは、二枚の紙切れだった。手紙ではなさそうである。小さな白い、真四角の紙。電話の横にでも置いてありそうな、メモ用紙が二枚。
「ナニコレ?地図と、暗号?」
「え!?」
勝手に見ることの罪悪感が、侑李のその言葉で吹っ飛んでしまった。あたしは鶴弥とともに、だだだだだっ!と勢いよく侑李の元に駆け寄る。そして彼の手元を覗き込んで、目を丸くすることになるのだ。
なるほど、それは地図であるらしい。手書きである上小さいので若干わかりづらいが、どうにもこの学校の校舎を模写したものであるようだ。この学校は四階建てである。現在は一階と二階しかほとんど使われてはいないので忘れがちだが。
そして、もう一枚のメモに書いてあったものは。
「暗号?」
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