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でもな、と彼は続けた。
『死んだんだよなあ、その先生。校長から花束貰って教師を引退して、そのまま家に帰る途中。乗ってた車が事故って、そりゃもうぐちゃぐちゃになってさ。目撃情報によると、酒に酔っているみたいな変な蛇行運転してて、それで最後は家の塀に激突したんだとよ。そして、さほどスピードも出ていなかったのに、運転席がミンチになってたらしい。先生は、下半身がぐっちゃぐちゃに潰れた酷い死体になったとさ』
あたしの頭の中に、ふらふらと走る車が浮かび上がった。いじめていた生徒たちの呪い、なのだろうか。何かに追われていたのか、導かれていたのか。なんにせよ、相当恐ろしく、そして痛い死に方をしたのは間違いなさそうだ。
『先生は死んだけど、生徒三十二名の無念は消えなくてさ。五年四組って概念に、それが残るようになって……事故を誘発するようになっちゃったんじゃないか、って話。だから学校も怖くなって、五年四組っていうクラスそのものをなくしちまったんだって。だから、四階が使われていた頃も、五年一組、五年二組、五年三組、五年五組……みたいに四組を飛ばしてクラス編成してたそうなんだけど』
なんとなく、ここから先が読めたような気がした。
つまり、本来四階に、五年四組、なんてプレートがかかった教室は存在しないということなのだろう。でも。
『その五年四組の教室が、突然出現することがある……とか?』
あたしの問いに、ピンポーン!と両手の人差し指を立ててみせる鶴弥。
『そゆことー。夜の学校には、幻の五年四組の教室が出現するんだ。四階の、西階段から登って一番奥の部屋。……その教室に入って、“先生はここにいますか”って呼びかけると……子供達の怒った声がするんだ。“先生は二度と来ないよ!!”……ってな!なあ、面白そうだろ?みんなで確かめてみよーぜ!』
この時の、鶴弥の迫真の演技ときたら!思わずあたしは隣にいた稚奈ちゃんと抱き合って悲鳴を上げてしまったほどである。それを見て鶴弥がげらげら笑っているのがなんとも忌々しくて、思い切り足を踏んでやったところまでよく覚えている。
あの後。鶴弥が半ば強引に肝試しを計画。夜にこっそり学校に忍び込んで、五年四組の教室を探してやろうということになったのだった。本当に、呼びかけたら声がするかどうかを確かめよう、と。
「……ほんと、あんたもくだんないこと考えたもんだよね。肝試しなんてさ」
「去年の夏のやつか」
「そうそう」
あたしの言葉に、主犯だった鶴弥はにまにまと笑って見せる。
「いやあ、あの時の神楽と稚奈の悲鳴ときたら!スマホで動画撮影しておけばよかったと心から後悔したもんだぜ!」
「それをやってたらお前のスマホはその場でご臨終になってたところだ。運が良かったなあ鶴弥?」
「しれっと恐ろしいこと言ってる!」
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