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ひいいいい、と大袈裟に悲鳴を上げる鶴弥。それを、まったくもう、とあきれ果てた顔で見ている侑李。
「笑い話じゃないよ。悪乗りして一緒に参加した僕も僕だけどさあ。四階に四人でこっそり忍び込んだら、本当に変な声が聞こえて大パニックになったじゃん。特に神楽さんの悲鳴はうるさかったよ?」
「うぐっ……」
「稚奈ちゃんは気絶しちゃうし、鶴弥くんでさえ固まってるし。しまいには僕が三人を教室の外まで無理やり引っ張っていったところで、悲鳴を聞きつけた教頭先生が飛んできて雷が落ちたんだから。職員室で四人並んで正座させられて、がみがみと何十分もお説教!もうあんな体験こりごりだからね」
「ぐぐぐぐぐ……」
あの時の教頭先生の顔。まるで鬼瓦のようだった、とあたしは記憶している。いや、勝手に校舎に忍び込んで、老朽化で危ないとされている四階に入って肝試しなんかしていたのだ。心配した、という意味でも叱られるのは仕方ないことだとわかってはいるが。
「……ここだな」
そうこうしているうちに、階段を上りきるところまできた。
階段と四階の廊下の境目にはロープが張られており、“立ち入り禁止”という看板もご丁寧にたてられている。入るな、と言うわりに扉を設置するとかそういう対策がなされていない。まあ、そんな予算も既にないのかもしれないが。
以前はこのロープを乗り越えて四階に行き、肝試しをしたのだった。あの時のドキドキはよく覚えている。どうしても、最後の教頭先生のお説教に全部持っていかれてしまった気がしないでもないが。
「散々な肝試しだったけど」
ふふっ、とあたしは思わず笑みをこぼして言った。
「あれはあれで、面白いっちゃ、面白かったかも。少なくとも、稚奈ちゃんにとってはそうだったんだろうな。……だって、そうじゃなきゃ四階のあの教室に、黄色いメモを隠したりしないと思うもん」
「そうだな。これが本当なら、稚奈は俺らに内緒でもう一階四階に来たってことだもんな。今度は一人で。いい度胸してるぜ」
「稚奈ちゃんってば、変なところで度胸の針が振りきれてるもんねえ」
あははははは、と笑い声が上がった。さて、いつまでもロープの前でのんびりしているわけにもいかない。先生たちにバレる前に、ミッションを遂行してしまわなければ。
「よし、さっさと終わりにしようか」
「賛成」
こうして一枚メモを見つけるたびに、この学校での思い出が溢れてくる。くだらないこと、苦しかったこと、楽しかったこと、怖かったこと。全部ひっくるめて、自分達の宝物になっているのだと。
稚奈は、あたし達にそれを辿ってほしかったのかもしれない。離れ離れになっても、けして忘れることがないようにと。
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