<9・あしあと。>

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<9・あしあと。>

 当然だが、立ち入り禁止になっている四階は掃除なども一切されていない。おかげで埃も砂もつもり放題で、廊下には自分達の足跡がくっきりと残ることになってしまった。あとで誰かが見たら、入り込んだものがいることは一発でバレてしまうだろう。  窓が開いていなくても、埃や砂って結構積もるものなんだな――そんなことを考えて、あたしは気が付いた。 「ねえ、稚奈ちゃんの足跡は?……黄色いメモを仕掛けたのが稚奈ちゃんなら……っていうか、稚奈ちゃんじゃなくても、足跡が残ってそうなもんじゃない?でも、それっぽいのないよね?」  段々日が落ちて来た関係で薄暗くなっており、そのせいで足元が見えづらいというのはあるが。くっきり足跡が残っていたなら、さすがにこの時間でも見ることはできるだろう。  それがない、もしくはわかりづらいということは、彼女がこの四階に足を踏み入れていないということか。もしくは。 「思ったんだけどさ。あの地図と暗号、いつ準備されたもんなんだろうね」  上履きが埃で汚れるのにしかめっつらしつつ、侑李が言った。 「実は、結構前から準備されてたって可能性、ない?だって、こんなことでもなかったら稚奈ちゃんの机の中をチェックしようなんて思わなかったでしょ。まあ、今回みたいにサッカーボールぶつけて誰かさんが椅子を吹っ飛ばしたら封筒は飛び出したかもだけど」 「……まあ、稚奈が突然不登校になったって状況じゃなかったら、封筒に気付いても中身は見なかったかもな」 「そう。で、足跡が残ってないってことは……その上に埃が降り積もってわからなくなったから、じゃないかなって。つまり、それくらい前から準備されてたってのはあり得るかと思うんだけど。ほら、図工室だって今は人が全然来ないから、変なメモ貼ってあっても先生たちも気づかなそうだし」  一理ある。  というか、足跡が見えない可能性と言われて、それくらいしか思いつかない。  問題は、何で彼女がこんなものを準備したのか、ということ。自分達は稚奈が不登校になった理由がわかるかもしれないと思ってこの宝探しを始めたわけだが、ひょっとするとその不登校と宝探しはまったく関係がなかった可能性もある。  例えば、そう。  この学校が閉校になると決まったのはだいぶ前のことだ。みんなに最後の思い出を作ってもらうために、なんらかのゲームを用意していた、とか。そういうこともあり得るのではなかろうか。 「稚奈ちゃんの、あたし達への最後のプレゼントだったとか、そういうことあるのかも」  あたしはぽつりとつぶやく。
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