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下駄箱が“貯”で図書室が“タ”。教室には“ン”の文字があって、図工室には“ク”の文字が。
これらを並び替えてみると、文字は“貯水タンク”になる。この学校の貯水タンクといえば、屋上にあるアレしかあるまい。どうやら、最後にそこに行け、ということであるらしかった。そこに、稚奈ちゃんの本当の宝物が隠してあるということなのだろうか。
「貯水タンク……屋上って鍵かかってなかったっけ?」
鶴弥の言葉に、いんや、とあたしは首を横に振った。
「鍵かかってたけど、壊れてるから入れるよ。大丈夫」
「それを知ってるということは、お前……」
「ち、ちげーよ馬鹿!ちょっとドアノブ引っ張ってぐいぐいーっとやったら、なんかこう、壊れちゃっただけで!それを叱られるのが嫌で先生に黙ってるとかそういうことじゃないんだから!」
「ぶっ壊してんじゃねえか!つか語るに落ちてるだろ!」
「うううううううるさああああああい!!」
あれは、ボロっちいドアがいけないのだ。断じて、自分が怪力であったわけではないと主張したい。
あたしがぎゃいぎゃいと騒いでいると、うにーっと手が伸びて来た。侑李に口をふさがれ、もごもごと呻くあたしである。
「はいはい、声大きいよ神楽サン。先生たちに聞こえちゃうでしょ。……さっさと屋上に行くよ」
「うう、ふふぁい……」
なんであたしだけ口をふさがれなきゃいけないのだ、先に余計なこと言ってきたのは鶴弥なのに、と腐りたくなる。
先んじて歩き出した侑李は、少しだけ立ち止まり、振り返らずに言ったのだった。
「僕も、この学校が大好きだし、なくなってほしくないよ。でも……それでも、卒業したら同じことなんだよね、結局。僕達が一緒に学校に通うことは、もうなくなる」
「侑李……?」
「でも、卒業したからって、僕達が消えるわけでもなければ死ぬわけでもないじゃん?……僕、稚奈ちゃんにも携帯買ってあげてって、おばさんにお願いするよ」
小さな肩が、ちょっぴり震えているのが見えた。
「だから、また会えばいいじゃん。……最後なんてことないよ、きっと。最後の宝探しに、しなくてもいいんだよ。違う?」
「……そうだな」
鶴弥が頷く。いつもより大人びた顔で、彼は笑っていた。
「何を最後にするかは、俺達で選べるよな」
何を最後にするのか。
シンプルなはずのその言葉が、不思議なほどあたしの胸に響いたのだった。
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