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<10・うたごえ。>
今いる四階から屋上へ直接向かうことができない。それが、この校舎の構造の奇妙なところである。
というより、そもそも四階には西階段の他に、自分達が辿り着いた“いわくつきの教室”の真横にある東階段を経由して行く方法もあったはずなのだ。それができなかったのは、東階段の前に防火扉が下りたままになってしまっていたから。
自分達三人が力を合わせれば防火扉をどけることもできたのかもしれない。でも、防火扉を動かすと結構大きな音がしてしまうのである。多分、無理に開けようとしたらその時点で先生達が飛んできて連れ戻されてしまうだろう。西階段から向かったのはそういう理由もあるのだった。こっちならロープを跨ぐだけでいいのだから。
「四階に行くのに、東階段使えないのどういう理由なんだろうな」
そして、三階に一度戻ったところで鶴弥が余計なことを言うのである。
「あの教室に行くのを防ぐためだったりして。やっぱり、幻の五年四組は実在していて、呪われた生徒っつーのも本当にいたんだよ、きっと!だから……」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ鶴弥煩い!煩いったら煩い!もうお前は喋んなあああああああああああああっ!」
「……二人とも五月蝿い。どっちかというと、神楽さんの方が」
「あぐっ……」
侑李にジト目で睨まれてしまっては、あたしも黙る他ない。そして、にやにやにやー、と鶴弥が笑っているのがなんとも面白くない。あたしはムカついて、鶴弥のすねを蹴り飛ばしたのだった。
職員室は二階にある。さっき丁度、四時の鐘が鳴ってしまったところだった。遠き山に日は落ちて、の音楽が聞こえてくる。なんだか、みんなで行った林間学校を思い出すな、とあたしは切ない気持ちになった。この学校は生徒数が少ないので、遠足も林間学校も修学旅行も全学年で行く。山登りと山での宿泊は、あたしが四年生の時に行われたのだった。
体力がない侑李を置いていかないようにみんなで気を付けたこと。
意外にも稚奈ちゃんが森の中で楽しそうにしていたこと。
その稚奈ちゃんと鶴弥が二人だけでいなくなって、探すのに苦労したこと。
最後は、足をすりむいて滑落しかかった稚奈ちゃんを鶴弥がおぶって、合流地点まで上ってきたこと――。
「懐かしいね」
同じことを思い出したようで、侑李が呟く。
「遠き山に日はおーちーてー……ってなんでキャンプファイアーでこの曲を歌うんだろうって思ったよ」
「林間学校か」
「去年のやつね。キャンプファイアーって明るいイメージがあるし、もっと明るい曲でやればいいのにね。まあ、結局みんなで持ち寄った曲も合唱したりしたんだけど」
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