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突然ですが……
「やぁ、皆様……。卵の中から………こんにちは」
―――――――。
「突然ですが………、助けてください」
――――――――――――――。
「私は恐らく、卵の中にいます」
割れる前の卵の中身。あなたは考えたことはありますか?
中に入ったことは―――――、ありますか?
「ここは真っ暗で何も見えないです」
―――――内側がどのようになっているか、よく見たことはありますか?
「壁が、非常にゴツゴツしてます」
卵の中らしき場所から助けを求める声がしています。
壁が割れる前の“中身さん”は、どのように収まっているのでしょうか。
「目を開けたら、ここにいました。いや…………まず、目があるかもわかりません」
反響する、謎の真っ暗な空間の中で助けを求める声。話しかけても誰か反応してくれる訳でもなく、自分が何故ここにいて、どのようになっているかもわからない状態。
「身体は、ぐちゃぐちゃです」
きっと、まだ形になっていないのでしょうね。これでは目があるかもわかりません。
もしかしたら卵の中には、壁から溢れた光があって、目が無いから真っ暗であり、実際は少し明るいのかもしれません。
ですが、本当に真っ暗ということも否定できません。
「時々、揺れます。地面が平坦ではなく、曲面だからなのか、ころっという感覚に襲われます」
たしかに、そこまでの説明があると卵の中であることは間違いないでしょう。
“彼”と言っていいのか、“彼女”と言えばいいのか、はたまたどちらにも区別できないものなのか、正体はわかりません。
ですが、中身さんのお願いを聞いてあげてください。
お願いは、1つだけだそうです。
「助けてください…………殻が破れませんっ!!!!」
“殻を破る”ということ――――。
それは、卵の中身に生きる全ての者の、目標であり、願いでしょう。
「あっ!!!!揺れましたっ!!!」
結構大きな揺れが真っ暗な空間と思われる場所に、起こりました。
殻が破られるのでしょうか。
「まさかっ!!!助けが来たのですか!!!!」
残念ながら……、殻が破られることも、ひび割れるように光が見れることもありませんでした。
しかし、
「でも私は今、殻を破ることなんてどうでもいいほどに、なんだか心地良いです。温もりを感じています………」
温められているのでしょうね。
一体、何に温められているのか。誰に温められているのか。
肌の温もりかもしれませんし、別の何かかもしれません。例えば、機械のような……。
「快適です。眠くなってきました……」
温かく心地よい空間にいると、誰しも眠くなってしまうものです。
「殻を破るのは、後にします……。おやすみなさい」
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