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ゾッとして近所のゲームセンターに駆け込もうとして、走る足をもつれさせる。派手に転倒して、受け身も取れずにコンクリートの地面に勢いよく突っ込む。
「足が……重いな」
微かな違和感を口にしながら起き上がると、男はそれでも走った。
フォームはめちゃくちゃで、効率も悪い走り方だ。異様に疲労が溜まっていく。年齢のせいにして、それでも進んでいく。
息も絶え絶えにようやくゲームセンターに辿り着けば、昔からやっていたゲームの筐体たちがそこには並んでいた。
懐かしい格闘ゲームに目をつけて、操作盤の前に座る。硬貨を入れて始めてみれば、ブランクというだけでは言い訳ができないほどに腕が落ちていた。対面に座った小学生にすら、勝つ事ができない。
「へたくそー!」
「そこどけよー」
口々に自分を責める小学生達に、男はフラフラと立ち上がった。
負けた事なんてなかった。
男は胸中で呟く。
自信を打ち砕かれた。今まであったはずのものが、確かにそこには無かった。
トボトボと帰宅して原稿用紙の前に座ったところで、タマゴが見せた夢たちを改めて思い出して、彼は気付く。
「あれは、俺がなれたはずの、そしてもうなる事ができないものか……」
足が重いのも、ゲームが下手になっているのも、そのせいなのか。
男はそう思って、最後の紫色のタマゴを見つめる。
これには何が入っていて、これを使ったらどうなるのだろう。
彼はそのタマゴを手に取ると────。
『ネタマゴ』──了
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