ネタマゴ

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無神論者で、三十年余りをクリスマス会も正月の初詣も意味不明だと思いながら過ごしていた彼は、初めて神に感謝を捧げた。 ありがとう、ネタが降ってきた。こんなに嬉しいことはない!! 極めて雑で不遜にさえ思われそうな感謝ではあったが、彼は真剣に心の中で手を合わせ、そう叫んでいた。 そして、先程までの元気の無さを吹き飛ばし、嬉々とした表情を隠しもせず、老婆に近づいた。 「ふぅん、お前さんは小説家になりたいのかい」 男が口を開く前に、老婆はそう言った。 彼はやや驚いたものの、その方がネタにはなると割り切り、さらに近づいた。足取りは軽い。 彼のそんな様子におかしそうに老婆は口角を上げて笑うと、ゴソゴソと机の下から何かを取り出した。 それは、乱雑に網に入れられたタマゴだった。 「それなら、このタマゴを割ってみるといい」 「タマゴを……?」 彼は老婆の目の前に立つと、そのタマゴを値踏みするように見つめた。 イースターエッグのように塗装されたタマゴだ。爽やかな水色、草原からそのまま抜き出してきたかのような若草色、目に優しくないピンク色に、毒々しい紫色のものなどもある。 「これ、なんか、……大丈夫なものですか?」 流石に言い淀みが見られた男に、老婆はひゃひゃ、と笑った。 「中身はお前さんの望んでいるものが入っているだけだからね。食べ物じゃあないよ」 「なる、ほど……?」 改めてマジマジと見て、手に取っていいか確認すると、老婆が頷くなりそれを手に取ってみた。 思っていた重みが無かったため、腕が少し空振るような形になる。 文字通り肩透かしを食らった彼は、やや不服そうに老婆に尋ねた。 「中身入ってるんですか? これ」 「不満があるなら置いていきなさいな」 口角を上げ、ニタリと老婆は笑う。 男は眉根を寄せて、彼女とタマゴを見比べた。
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