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慌てて家に帰り着くと、男はそのタマゴたちをボウルに移す。何度見ても奇妙な色をしているが、明るいところで見ると塗装したわけではなさそうに思われた。
なんなんだろうな。
男はひょいと一つを取り上げ、やはり空のように感じられるそれを振ってみる。感覚としてはピンポン玉を振っているようなもので、中に重みを感じない。
若干の後悔が男の心に滲む。
だが、なけなしの金も払ってしまったのだ。物は試しとさらに小さなボウルを用意して、彼は黒いタマゴを割った。
だが、やはり何もない。
「騙されたのか……」
ポツリと独り言が漏れる。
意味深に一つだけ残すように言われたこともあり、彼は心のどこかで期待していたのだ。
しかし小さなボウルの中には何も無い。それが現実だった。
予定通り、謀られた話を……いや、もう眠いから、一度寝てしまうか。
彼は布団を敷いて潜り込むと、電気を消した。腹の虫が騒いでいるが、無視をする。
そうして眠り込むと、夢を見た。
裁判所で働いている人の夢だった。
あくまでも公平に話を聴きながら、より正しいと思われる方向に天秤を傾ける。時にはその天秤をどうしたものかと葛藤し、苦しみながらも働いていく。またある時には誰かに感謝されて、胸に火を灯す。そうして本人も成長しながら、周りを引っ張っていく。
そんな夢だった。
彼は目を覚ますと、夢で見た内容に加筆をしながら原稿を書いた。決して長い文章ではなかったものの、ネット上で投稿してみると悪くない反応が返ってきた。
少なくとも、謀られた話を書くよりは人の胸を打ったような気がした。
「……いや、本物かどうかはわからない」
男はまだ山となっているタマゴを見つめて、独りごちる。
たまたま偶然、人と出会った事がトリガーになってネタが湧いたのかもしれない。
そんな事を思いながら、親が送ってくれた米を頬張り、しばらくそれ以外を食べていない腹をさする。
彼は今度は爽やかな水色のタマゴを割った。
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