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高校のサッカー部キャプテンとマネージャーの、青春を追うような夢を見た。
時に笑い、時に泣き、励まし合いながら、気付けば仄かな思いを抱いて。夢を叶えたら告白しようとするキャプテンと、そんなものは関係なくずっと待っているマネージャーの、王道とも言える恋愛物語だった。
彼は目を覚ますと、それを原稿用紙に書き付けていった。やはり加筆をしながら完成させると、彼はそれを再びネット上に投稿した。
また悪くない反応、どころか良い反応さえ返ってきた。
前回の物も人の目に留まり、さらに評価されているようだ。
だが、二個では安心できないと、男はさらに若草色のタマゴを割った。
農業に従事する若者が、四苦八苦しながら成長していく夢を見た。
彼は三度それを原稿として仕上げ、ネット上に投稿して反応を見たところで、ようやく本物らしいと信じる気になった。
「ネタのタマゴ……ネタマゴ、ってところか」
ボウルに入れられたタマゴの一つを軽く指で弾きながら、上機嫌に彼は言った。
ちょっとした賞をもらって若干だが生活が潤った彼には、余裕があった。
また困窮したら使おう。
そう考えて一度床下収納に仕舞ったが、一月もしないうちにもう一つ割ってみた。彼はタマゴを割ると見る夢を、楽しみにするようになっていたのだ。
目に優しくないピンク色のタマゴは、プロゲーマーとして生きる人の夢だった。
薄い黄色のタマゴからは小さな町役場で働く公務員の夢が。
斑らな赤色のタマゴからは命をかけて人を守る消防士の夢が。
海を抜き出したような青色のタマゴからは一攫千金を狙うマグロ漁師の夢が。
柔らかいオレンジ色のタマゴからは生徒を思う小学校教員の夢が。
くすんだ茶色のタマゴからは危ない事にすぐに首を突っ込む探偵の夢が。
そう、夢が、生まれた。
タマゴを割ると夢が現れる。男はそれを書き付けて加筆修正しては発表していく。
どれもこれも、何故だか賞賛された。
残ったのは怪しい紫色のタマゴだけだった。
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