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手を付けようとして、彼はふと老婆の言葉を思い出す。
「一つだけ忠告しておいてあげよう……。たった一つ、たったの一つだけでいいから、割らないでおくんだよ」
フードの下の目はまともに見えなかったが、至極真剣な目をしていたように思える言葉だった。
ふむ、と男は考える。
結局のところ、老婆との出会いやタマゴの事は書いていない。割ってしまって、何事もありませんでした、としてもいいのかもしれない。
もう一度手を伸ばして、触れたところで、はたと考える。
「今まで見た夢、共通点はあるんだろうか?」
何の脈絡もないような物語たちだったが、どうにも小骨が喉に引っかかったような感触があるのだ。
最初は小さな裁判所で働く夢。
男は文学を学ぶ傍らで、法学を学んだ事もあった。裁判官にはなれなくても、弁護士にはなれなくても、真面目に学んでいればそんな未来もあったのかもしれない。
次はサッカー部のキャプテンとマネージャーの夢。
小学生から高校生まで、ずっとサッカーを続けていたが、いかんせん努力というものをしてこなかった。たしかに高校時代のキャプテンは、マネージャーと付き合っているなんて噂があったような気がする。
三つ目は農業に従事する若者の夢。
親は趣味で田畑を作っており、自分も散々手伝わされたものだった。それが嫌で実家を離れたようなところもあるのだが。
四つ目はプロゲーマーとして生きる人の夢。
得意なのはゲームセンターに置いてある格闘ゲームだったが、仲間内で負けた事はなく、大会成績などを見ても自分も混ざれるようなレベルだった。
その他も全て、親の仕事、自分が昔憧れた仕事、それを目指せばなれたはずの姿だった。
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