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原罪
その昔――ヨージュに住む人々は、宇宙に憧れた。あの暗い闇の向こうには、どんな世界が広がっているんだろう。我々と同じように文明を持った生物は存在しているんだろうか?
天才科学者タルマ・バールの功績により、優れた航宙機の開発に成功した我々の先祖は、数百年の後、恒星アルナを太陽に抱く惑星レーヴに辿り着く。その星の生命体は科学技術こそヨージュに劣っていたが、豊かな資源に恵まれ、平和に繁栄していた。我々が最初の接触を果たした時、レーヴの人口は60万を超えており、隣の惑星ドーヴの開拓、移住を開始したばかりだった。
異星人との出会いは、双方に大いなる驚きと、少しの不安と期待をもたらした。慎重に交流を繰り返し、3度目の親善使節団がレーヴに降り立った直後、悲劇が起きた。
ヨージュ人には無害のウィルスが、レーヴの人々には致死性の感染症を引き起こした。感染爆発はあっという間で、ドーヴに移住した20万人を除き、およそ50万のレーヴ人が全滅した。
一方、親善使節団としてヨージュに来ていたレーヴ人は、無事だった。研究の結果、このウィルスはレーヴの太陽を浴びることで抗体が出来ることが分かった。幼い内にヨージュで暮らせば、レーヴ人でも発症しないのだ。
50万ものレーヴ人の命を奪ったヨージュの人々は、覚悟を決めた。これから生まれる全ヨージュの子どもの身体を、レーヴの人達に差し出そうと。
実は、レーヴ人は脳内に小さな核を持ち、遺伝情報の一部を保存する特殊な身体構造を持っていた。遥か昔、レーヴ人の祖先の身体は脆弱だった。進化の過程でこの能力を生み出し、様々な異生物に取りついて命を繋いできたのだという。
こうして、今から300年前、ヨージュ人の新生児にレーヴ人の核を埋め込む「托卵システム」が始まったのである――。
「核が孵化する確率は、約6割といわれています。我々は、レーヴ人が50万人に達するまで、この政策を続けていくのです」
15歳までに孵化した子ども達は、星都で1年間、レーヴ人としての教育を受けた後、定期便で故郷に帰る。孵化しなかった僕達は、高等部を卒業したら、ヨージュの集落に配属になり、そこで家庭を持って子どもを産み育てる。これが、この星の正史、僕達の真実だった。
校長先生の話が終わる前から、新入生達の嗚咽が体育館を埋めていた。
僕は、ルカを思い出していた。きっと、一足早く卵が孵化してしまった、親友のことを――。
【了】
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