レウグの卵

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 林立する木々の間に満ちた靄は、朝日で白く光っていた。  足元は湿った落ち葉で滑りやすい。隠れた木の根に躓かないよう気をつけながら、シアンはノイグスト山の獣道を歩いていた。 ーー今年の「レウグの卵係」は、ノラとシアン。  弱冠17才にして皆の憧れの仕事が与えられたのは、小さな頃から山を駆け回っていたからだろう。  でも、シアンの心は鉛のように重かった。 「ルートは頭に入ってるか」 「はい」  30も年上のノラは、レウグの卵係のベテランだ。無口で厳格な彼といると、息が詰まりそうになる。冬季の間ずっと毎日彼と一緒に仕事をするかと思うと、シアンはいっそのこと骨を一本折って役を外してもらいたいくらいだった。  ノラの逞しい背中を追いながら、シアンは昨夜のことを思い出していた。 *** 「名誉なことじゃないの」 「去年までならそれで良いけどさ」  シアンは深いため息を吐き、山歩き用の装備をチェックしていた。訪ねてきた幼馴染のレニは、長くて白い脚を組み、窓辺に座ってこちらの様子を面白そうに見守っている。  近年の地震に伴い、ノイグスト山は噴火の恐れがあるからと登山禁止になっていたのに、学者たちの調査の結果、この秋からそれが解禁になったのだ。  それがなぜ不都合かと言うと-- 「今年は多いだろうね。レウグの卵、狙ってくる奴ら」
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