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動悸が激しく鳴り、嫌な汗が額に吹き出した。私は相槌を打つことも出来ず、ただ黙ってお婆さんの話に耳を傾けた。
「何故だかなぁ、あの子はここが気に入っていたみたいで、毎日通っていたよ。わたしはすぐそこの家に住んどるんだども、何年か前はな、小さい女の子もよく見かけたんだ。二人でブランコ揺らしながら楽しそうにお喋りしてたんだが……、ここ何年かは女の子の姿が見えんくなってなぁ。わたしは思うんじゃが、学校に行けなかったあの子にはその女の子以外に友達がいなかったんじゃないか。あの子は、友達に会いたくて毎日ここへ通って……、天気なんて関係なく来てたから……、身体に障ったのかもな。発作を起こしてブランコの手前で冷たくなっていたんだと」
嗚咽を漏らすお婆さんに、私は尋ねずにはいられなかった。
「その人、亡くなったその人は何という名前だったんですか」
「ユウイチじゃよ――」
あれからずいぶんと経ってしまった。
公園は時の流れを忘れた様に、変わらぬ姿でひっそりと存在していた。
中学を卒業後、雄一くんを思い出すのが辛くて、私は町を出た。あれこれそれらしい理由をつけて地方の高校へ進学したのだ。以来この町へは帰っていない。我が子が成人した人生の節目の年、残りの人生を悔いの残らないよう生きようと決意した時、不意に大事な友だちに会いたくなって帰省したのだった。
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