5月 インターハイ予選

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5月 インターハイ予選

 インターハイ予選1回戦。お互い名もなき、都立校 VS(バーサス) 私立高。ちょうどいいカンジのレベルの組み合わせで、リードしたり、リードされたり、第3クォーター完了時点で、うちの5点リード!!!!!  ここで「勝てる!」なんて思っちゃいけないんだぜ。誰一人、「勝てる!」とか「イケる!」とか一言も言わずに、グッと顔を引き締めて、最終第4クォーターに出て行ったら、私立高の新しく出て来た11番が、俺にマーク付いた。  そいつ、パスを受けようとする俺の腕、びったん、びったん、二度も(はた)いてくれちゃって、二度目の時、ファウルでもらったボールを有生(ありう)がスローインしようとするのを、砂川(すなかわ)は止めて、レフェリ(審判)ーのところに行った。  砂川は、11番が俺の腕を叩いたのが「わざとじゃないか」って訴える。「わざと」だと、アンスポーツマン・ライク・ファウルで、フリースロー2本、もらえるもんね。  どっちかってゆーと、俺は、もう一瞬、レフェリーのファウルの判定が遅かったら、ボール(ほう)れて、ショット中のバイオレーシ(反則)ョンになって、バスケットカウント(シュートの点数)+フリースローもらえるから、うれしいんだけどな。  砂川の訴えは、レフェリーに認められなくて、有生がスローインして、試合再開。  訴えが認められなかった砂川がイラついちゃってミスったのもあるけど、11番が自分のファウルを取り返すみたくゴール2本4点、奪って1点差、おまけに優歌(ゆうか)が、2本目のショット中のバイオレーション取られて、フリースロー1本、与えちゃって、同点。  ぬおおおおお。11番にマーク付かれてる俺が、止めなきゃなのに、背中でブロックされて、前にも出れなかった~~  俺だって自分のミスを取り返すぞ!ところが、優歌からのパスを受ける俺の腕を、またびったんって、11番くんが叩いてくれちゃって、ファウルで有生がスローインしたのを、11番くんがカットして、ドリブル独走。俺は追いついて、ドリブルを(はじ)いた。でも、弾いたボールが、アウト・オブ・バウンス(コートの外へ出て行った)。相手ボールのスローインで、状況、変わってねえ。  スローインを11番が受け取って、俺と優歌がダブルチームで(はば)む。え!!いつの間にか、ボールは、敵のポイントガードに渡されてた!俺と優歌が「え!!」って思ってる(すき)に、11番はゴール下に走り込んでる。ポイントガードから11番はパスもらって、ゴールを決める。2点リードになっちゃったよ!! 「最終クォーターに投入(とうにゅう)って、最終兵器かよっ」  優歌がリストバンドで汗を拭って、はあはあ、言った。  鹿尾先生がタイムアウトを取った。俺は、クロック(時計)を見る。4分47秒。試合時間・残り5分ちょっと。  ベンチに戻るなり、(つむぐ)がクーラーボックスからアイスバッグを出したんで、みんな、ザワつく。紡、ケガ?!  紡は、ベンチに大股(おおまた)開いて座る砂川の頭の上に、アイスバッグを当てた。成程(な~る~)。頭、冷やせ。ってゆーこと。みんな笑って、ちょっと、なごんだ。 「腕、だいじょうぶか、今宮?」 「問題ないッス」  鹿尾先生に聞かれて、俺は答えて、水分補給。 「じゃあ、俺たちは、お前を犠牲にする」 「ぶははは」  俺は、むせそうになった。 「わぁってますよ(わかってますよ)。あともう1回、(はた)かれれば、チームファウル4つで、フリースローもらい放題ですもんね。ビシビシ、叩かれて、バンバン、フリースロー、入れたりますよ」  この時のために、俺はドSな恋人に飼い()らされて来たんだぜ!! 「ってわけだから、砂川、イライラすんな。お前がチームメイトを傷付けられて、(いか)る気持ちもわかるよ。とってもわかる」  鹿尾先生が、砂川の肩に手を置くと、1分間のタイムアウト終了のブザーが鳴った。砂川は立ち上がる。置き去りにされる紡のアイスバッグを持った手と、鹿尾先生の手。 「ファウルで、プレーの流れが途切れるのが、イラつくだけだよ」  吐き捨てて、砂川はコートへ入って行く。キャプテンナンバー4番を背負った背中に、俺たちは付いて行く。カルガモのヒナみたく、ただ後を、よちよちよち付いて行くんじゃなく。俺たちの意志で、この足で。  それからは、ボールの取り合いだった。薄々(うすうす)、そうじゃないかと思ってたけど、11番、バスケ、上手いな!!  マーク、外せない。絶ッ対、俺を自分の前に出させない。俺に付いて来るんじゃなくて、動きを読んで、付いて来てる。  上手いのに、最後の第4クォーターに()()、出された理由は、わかる。  はあはあ、すげえ荒い息と、だらだら、全身から噴き出して流れる汗。ほぼフル出場の俺より、ひどい。それに、こいつの耳、ピアスの穴だらけだ。こいつ、 「残り1分、走れ走れ走れ!!」  鹿尾先生が、ライン(ぎわ)から無責任なこと叫ぶ。  こいつ、バスケ、辞めてたんだ。――何に、絶望した?そんなにバチバチ、ピアスの穴、開けて、運命、変えれたのかよ?  砂川が敵に囲まれて、ゴールへボールを高く(ほう)る。苦しみまぎれのミドルシュートなんかじゃない。俺は11番くんといっしょに、サイドライン、ギリギリを走って行く。 「っあ」  11番くんが足がもつれて、声を上げる。マークが外れた。ゴール下では、紡が高く跳び上がり、砂川の幼なじみロングパスを受け取り、そのままシュート!と見せかけて、俺にパスする。  紡、お前が言ってた「試合終了5秒前、2点差」なんて状況、マジであったよ。予言者かよっ?  俺は両手のひらで、ボールを受け止める。うわおう。必死に11番くん、追いついて、高く手を上げ、ブロックに跳ぶ。  レフェリーが「わざと(はた)いた」判定しなかったのは、俺の腕を叩いた11番くんの手が、ちゃんとボールを狙ってて、届かなかっただけだって、ちゃんと見てたからだ。俺と同じくらいの身長なのに、ジャンプ(りょく)が足りない、じゃなくて(おとろ)えた。  11番くんの手は、ボールにも届かず、3ポイントシュートを放つ俺の腕にも届かなかった。  着地したコートが、ぐにゃっと歪んでた。やっべ!!11番くんの足、踏んじゃった!!俺は謝る。 「ごめっ」  シュートの行方を見てた俺の視界は、斜めになって、次の瞬間、ゴンッ!って俺の頭の後ろで大きな音が響き、いくつもの丸い白い光が目の中に飛び込んだ。まぶしくて目を閉じると、真っ暗闇 「想太!!」  晴の悲鳴が聞こえた。
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