3ポイントシューター

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3ポイントシューター

「あのっ、今宮先輩」  放課後。部室で体操着に着替えてる俺に、ひょろ~んと背の高い1年の大崎(おおさき)主水(もんど)(バスケ童貞(未経験者))が、もじもじ、話しかけて来た。 「何?!」  俺は声がひっくり返った。「告白タ~イム」とか冗談でも思えなくて、反射的に「退部かっ?!」と思ってしまう。 「今度、3ポイントシュート、教えてもらえませんか?」 「え。ああ、うん。もちろん」  よかったぁ~。退部じゃなかった。来月5月に、インターハ(インハイ)イ予選があるんで、未経験者を置き去りにしがちな練習しちゃってる自覚はある。――まだ仮入部だから、「退部」とは言わないのか?  みんな、体操着に着替えて、部室を出て、階段下りると、部室棟の前で、3年、2年、1年、それぞれ横1列、合計3列で並んで、その前に部長・砂川(すなかわ)爽太(そうた)が向かい合って立つ。 「よろしくお願いします!」  部員全員、頭を下げて、あいさつして、練習開始。  それぞれ準備体操してから、だらだら走り出し、門を出て、外周を回る。べしゃべしゃ、しゃべってるヤツらもいる。でも、1周目は、ゆるゆるだけど、門を過ぎると、みんな、ダッシュに切り替える。ダッシュで2周。  昔から、練習前に外周3周ってのは、お約束で、下手すると歩いてるより遅い速度で、チンタラ走ってたんだけど、今は、1周目は体を慣らして、2周目3周目は、ダッシュしてる。  外周終わると、はあはあ、歩いて、部室に戻って、水筒やペットボトルで水分補給して、バッシュ持って、体育館へ行く。  体育倉庫から、バスケットボールの詰まったカゴと、重ねた真っ赤な三角コーンと、バスケ用の点数表を出して来る。三角コーンは、すみっこに置いといて、それぞれボール取って、コートのエンドラインに横1列になる。ドリブルでコート往復したら、ボール持ってないヤツにパス。これを5往復。  三角コーンを並べると、ジグザグドリブル、5往復。  ドリブル練習は、俺は『黒子のバスケ』読んで、左手でメシを食い始めて、両手利きになったんで、行きは右手、帰りは左手、行きは左手、帰りは右手、って交互にしたり、途中でスイッチしたり(手を替えたり)する。  三角コーンをすみっこに片付けたら、3グループに分かれて、スクエアパス。パスの種類や、スピードを変えて、回して行く。このあたりで、顧問の鹿尾先生が、体育館にやって来る。  スクエアパスの後は、PG砂川チームとPG守谷チームで、実戦練習。鹿尾先生、レフェリー(ちゃんと資格、持ってるんだって)とコーチの一人二役。  実際の試合の通り、10分4クォーター、マジでやる。チーム分けは固定じゃなく、クォーターごとに入れ替わる。今日は俺、PG砂川チームに、ずっといる。  この(かん)、仮入部1年生は放置で、見学してるしかないっつ~のがな。鹿尾先生は、1年生たちに向かって、こっち指差しながら、いろいろ話しかけてて、プレイとかルールとか、説明してるっぽい。あざ~す。  試合が終わって、休憩~。あっちこっち、座り込んで、水筒やペットボトルで水分補給。ぐで~と、寝てるヤツもいる。ふーはー、ふーはー、息が整うと、俺は立ち上がり、歩いて行って、部長・砂川に聞く。 「ちょっと俺、」 「は?」って顔で砂川が、俺を見る。今日、体育館半面(はんめん)、男子バレーボール(男(だん)バレ)部だからね!!おどおど、話しかけても、聞こえないよね!!俺は、はっきり、声を大にして言う。 「俺、こっちでシュート(れん)して、いい?」 「・・・・」 「は?!」  砂川が何か答えたけど聞こえなくて、俺は大声で聞き返す。男バレのボールの音と、大きな掛け声にかき消されて、ぼそぼそ返事されても、マジで聞こえない。 「いいけど!」  砂川が大声で返事する。俺は大声で聞く。 「ボール出しに、大崎、借りていい?」 「いいけど!」  OKもらいました!ってゆ~か、1年にゼンゼン、キョーミないよね~、砂川。  やっぱ見学だけじゃ楽しくないの、俺は知ってるから、ちょっとでもボールに(さわ)れた方がいいと思う。俺は、壁際にまとまって座ってる1年・12人の中の大崎に、大きな声をかける。 「大崎。ちょっと、こっち、シュート練習、してみようか?」 「ほんとですか?」  予想外に、きらっきらな喜び顔をされちゃって、俺、先輩(せんぱい)(かぜ)、吹いてるよっ!いい風、来てるっ! 「え。いいな。俺も、いいですか」  言いながら立ち上がった、え~と、この1年生の名前は、何だっけな?大崎は、主水(もんど)なんてキラキラネームだったんで、覚えてた。 ――結局、1年12人、俺に付いて来ちゃったんですけどぉ。これはマズい。砂川に、俺派と判定されると、君たちの輝かしい未来が  3年と2年の他のヤツらも、「何?何?」って、近付いて来た……人間って、何かわかんないけど、人が溜まってると、集まって来るよね~  結局、俺の3ポイントシュート教室に、バスケ部3分の2が参加、あとの3分の1(砂川、含む)は、引き続き休憩となりました。  まずは、俺、お手本。俺は、フリースローラインの後ろに立つ。大崎くん他は、俺の両脇に離れて立って見てる。キンチョーするな!俺は説明する。 「いきなり3ポイントラインの外から入れるなんてムリだから、最初は、フリースローを確実に決めれるようになるのから、始めます」  俺は、手の中で、くるんっと1回、ボールを回して、しゅぱっと投げる。バックボードに当たって、すとんとゴールに入った。俺、フリースローは失敗しないので。落ちて床に転がったボールを、優歌(ゆうか)が拾いに行って、俺にパスしてくれる。 「いや、そういうことじゃなくって、」  優歌が歩いて来ながら言う。 「俺らは、3ポイントシュートのコツを伝授(でんじゅ)してもらいたいんだよね」  コツ。コツ。コツ。コツ。コツ。コツ。………… 「……『練習する』?」 「何?」  優歌に聞き返される。今日、体育館半面(はんめん)(だん)バレだからね!!自信なさげに行っても、聞こえないよねっ!!俺は声を大にして、断言する。 「『練習する』!!」 「それ、コツじゃない!!」  俺が言うと、有生(ありう)が大声で全否定しやがって、みんな、「あ~あ…」って、バラバラ、解散して行った。あっちのゴールで、シュート練習を始める。  ――こっちのゴールに残ったのは、大崎と、1年2人だけ。「少数(しょうすう)精鋭(せいえい)」って、いい言葉だな!!! 「一度、やってみよっか」  俺は3人に言う。体を動かしてやることって、言葉で説明されたの聞いて、できることじゃない。  まずは、大崎くん。フリースローラインの上に立っちゃったんで、 「あ。フリースローラインの後ろにね。踏んじゃダメ」  ルール、踏んじゃダメだったよな…?  大崎は、フリースローの後ろに、足をちょっと開いて立つ。とりあえず俺は何も言わないでおいた。大崎が自分の頭の上に、両手でボールを持ち上げて、俺を見る。 「いいよ。やってみて」  俺が言うと、大崎は前を向き、ボールを放った。  あはは。やっぱバスケ童貞(未経験者)だなー。腕だけで、ボールを放っちゃってる。  ゴールにも届かずに、ボールは上に上がっただけで、落ちた。落ちたボールを拾いに行く俺。つっ立てるだけの1年坊、3人全員、バスケ童貞(未経験者)だな…。フツー、ボールが落ちると、反射的に体がボールを拾いに行くよな。  俺は、大崎の隣に立って、説明する。 「立ち方もね。膝、見て、膝」  俺は、膝を折って、伸ばしてを繰り返してみせる。 「イメージとしては、うーん、そうだな。体は、ビヨーンって、ジャンプするカンジ。その勢いで、ボール飛ばすってゆーか」  俺の下手な説明を、マジメに聞いてくれてる1年坊3人組。先生、がんばるよっ。 「まずは入れることなんか考えずに、ゴールまで」  俺は左手でボール持って、右手でゴールを指差す。 「ゴールにボール、届かすことだけ、やってみようか」 「はい」  おう。未経験者は素直で、よろしい。大崎にボールを渡すと、言われたまんま、足元、見て、フリースローラインの後ろに立ち、膝を折って、両手でボールを頭の上に持ち上げて、放った。 「いい。いい。ゼンゼン、いい」  俺は声を上げる。さっきより、ゼンゼン飛んだ。高さが足りなくて、ゴールには届かなかったけど。ボールは体育館の横棒が並んだ壁に当たって、ころころ、戻って来る。俺は拾う。 「次、2人も、やってみようか」  すまん!名前が、まだちょっと覚えれてない。  1年坊がボール放って、俺が拾って、パスしてやって、次の1年坊がボール放って、俺が拾って、パスしてやって、次の1年坊がボール放って、俺が拾って、パスしてやって、繰り返す。――こうやって、ボール拾いしてると、中学ん時、思い出しちゃうなあ~。  うちの中学のバスケ部、めっちゃ厳しくて、1年とレギュラーに選ばれない2年は、練習中のコートに入っちゃいけない。ボールは、ボール拾い以外、触っちゃいけなかった。  だから俺は、先輩が来る前、朝練の準備するのに、ちょっとだけ早く行って、一人で準備した後、ちょっとだけシュート練習した。放課後も、練習、終わって、先輩たちが先に帰った後、後片付けして、ちょっとだけシュート練習した。  いっしょに練習してくれるヤツもいなくて、独りでも練習できるのが、シュート練習だった。  部活で、友達がいなかったわけじゃないんだよ。先輩の許可なく、ボールに触ってるの見付かったら、怒られるからで。「先輩に怒られるから、今宮、やめた方がいいよ」って、何度も言われた。俺が練習してるの見ないふりしてるヤツもいた。先輩にバレても、自分は「見てなかった」って言い張るために。  コツコツ、練習して、あ!さっき、「3ポイントシュートのコツ」聞かれて、「コツコツ、練習」って答えれば、ウケたのか!いや、ウケを狙ってもな…コツコツの「コツ」って、「コツ」って意味なの?今、それ、悩むとこじゃない。  コツコツ、練習して、フリースローも、3ポイントシュートも、かなり入るようになったけど、2年になっても俺は、レギュラーになれなくて、コートにも入れなくて、ボール拾い以外は、ボールにも触れなかった。2年は準備・片付けはしなくてもいいんだけど、俺は1年といっしょに、朝練の準備と、放課後の練習の片付けして、シュート練習した。  中3になって、先輩がいなくなって、コートに入って、ボールに触れるようになったけど、どうしてもレギュラーになれなかった。  だから、高校でバスケ部に入って、学年の上下関係がゆるゆるで、みんなで準備して、後片付けすんのが、衝撃すぎた。高1の10月の新人戦で、生まれて初めてレギュラーに選ばれた時も、試合に出れた時も、めっちゃうれしかった。  未経験者のこいつらも、今年の10月、レギュラーになって、うれしくなってくれたら、いいな。  う~ん、いい先輩風、吹いてる!俺!!
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