3 対 5

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 正直に言おう。  勢い余って、おっぱいに突入、むにゅっ。とか、いっしょに倒れて、谷間に突っ込んで、ぱいぱいずりずり。とか、両手に、おっぱい鷲掴み。とか、ラッキースケベを期待してなくもなかった。だって、男子高校生だもの!!ナルミさんが、ケッコーぱいおつ(おっぱい)かいでー(でかい)。  しかし、そんなラッキーは発生せず、つか、ゼンッゼン!指一本、体に触るどころか、ボールにも触れねえ!!  1回戦も勝てねえような最底辺都立高のバスケ部が、プロバスケットボール選手に(かな)うわけないことなんて、わかりきってる。  必死に走ってる俺らよりも速いドリブル。パスされた先を見ると、もうパスは回された後で、ボールを見失う。シュートのブロックに飛んだって、指先に、かすりもしねえ。 「高さで勝てない相手に、高さで勝とうとしない!」 「もう3歩、速く走って!」 「3ポイントラインの外で待ってたって、ボール来ないよ!」 「イン、駆け込んで!ディフェンス()られたら、外に出る!コートの外まで出て、どうすんの!」  さらに、お姉さまたちの言葉責めに、メンタル、ゴリゴリ削られます。  男子高校生は、黄色いユニフォームがまぶしいお姉さま3人に、体も心も、もてあそばれて、もう走ることもできなくて、立ってもいられなくなって、次々に、座り込む。 「座り込んでるヤツは、外に出ろ!」  顧問の鹿尾先生が大声で言う。 「大崎!」 「はい!」 「喜多見(きたみ)!」 「はい!」 「入れ!」  鹿尾先生に名前を呼ばれた1年はコートに入り、座り込んだヤツらは、這いつくばってコートの外に出る。  最初からコートに入ってんの、俺と紡だけ~?沈黙の帝王・砂川(すなかわ)は、コートの外で、ぢと~っと、守谷(もりや)がツブれるの待ってて、ツブれると、コートに降臨したんで、体力ゲージも気力ゲージも、まだ有り余ってやがる。  でも、やっぱ砂川、上手いな~。ムダに走らず、お姉さまたちにシュートさせて、こっちにボール持つと、エンドラインから1年にショートパスを出させて、受けた砂川はドリブルで走り出す。スピードじゃ(かな)わないのが、わかってるから、キュッ!とストップして、急角度で方向転換して、かわす。そして、ノールック幼なじみパス!!紡がシュート!!と見せかけて、俺にパス…  俺の目の前、黄色い壁がそそり立ち、パスカットした。こんな状況ですが、とってもいいレモンの匂いがします。 「紡~。さっきから、ムダなパス、出してんじゃないよ」  (つむぐ)(あね)(ちから)いっぱい、弟にボールを投げ付けて叱る。弟は受け止めたが、ボスッて、すんげ~音、しましたよ!  お姉さんの言う通りだ~。俺は黄色い壁の陰から、紡に(こぶし)を突き上げてみせる。さっきから、紡、「シュートと見せかけて、俺にパス」をしては、全てお姉さんに(はば)まれてんだもん。 「俺らの隠し技なの!」 「パスくれる前の、目線(めせん)で、パスしようとしてんの、バレバレだっつの。飛ぶ前、こっちのポジション把握(はあく)して、ノールックでやんなきゃ、通らないよ」 「わかりました~」  姉ちゃんのアドバイスに、紡は、ぶーたれた顔と声で言って、その場でドリブルする。 「紡、後ろ!」  叫ぶ俺の「紡、」の「つ」の時点で、ナルミさんが紡の背後からドリブルを(はじ)いた。転がるボールを、お姉さんが伸ばした長い腕より速く、砂川が滑り込んで拾った。そして、お尻ついたままの片手パスは俺に飛んで来た。  うわ~お。砂川のパスって、取ろうとか、受けようとかしなくても、俺の両手の中に、すぽっ、って入って来んだよな~。どぅおわわっ!紡姉が、もう振り返って、俺の目の前、ブロックに飛ぶ。そそり立つ黄色い壁!ぱいぱい!  もう何度もブロックされて、高さはわかってる。高さで勝てないのも、わかってる。俺は、後ろに退く(フェイドアウェイ)、お姉さんの、でっけえ手にボールを直接、叩き落されないために。タイミングずらして、お姉さんがジャンプの最高到達点から落ちるのを待つために。  そして俺、ジャンプシュート。お姉さんのブロックの指先を越えて、俺のショットは飛んで行く。行っけえええええっ!  目の前、そそり立つ黄色い壁で、俺の3ポイントシュートが入ったか、どうかは見えなかったけど、コートの中のみんなと、周りで見ている人たちの歓声で、わかった。  俺は、座り込んだままの砂川を見た。全長187cmのタヌキの焼き物のようなキャラ(つよ)幼なじみ()が、いっつもそばにいるせいもあるけど、砂川って、これっていう特徴がないんだよな~。ヒールにありがちな、わっかりやすいイジワル顔でもなくって。フツーの、短めキノコ頭の身長173cmの男子高校生。 「ナイスショッ(ナイショッ)ト」  立ち上がりながら、砂川が言った。俺は言い返した。 「ナイスパス」  砂川は軽く手を上げた。そのすぐ横を、黄色い風がドムドム、ドリブルの爆音を立てて駆け抜けて行って、俺たちは慌てて追っ駆けて行った。
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