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運命を変える方法
次の日、月曜日の放課後。部活見学に来てる1年生の視線を浴びながら、俺たちは練習していた。
1年の、じゃねえ、2年のポイントガード・守谷聡太が、練習に来てないなー。まあ、昨日、あせりすぎランキングNo.1だったからなー。そりゃ落ち込むよねー。って心の中で、サボリを生温~く同情してた。他のヤツらも、守谷がいないことを何にも言わず、同じように心の中で同情してたと思う。
体育館に、顧問の鹿尾先生がやって来た。ちょいちょい、みんなを、一人ずつ呼んで、ちょこちょこ、話してる。昨日の反省点をアドバイスしてんのかな?
「守谷、退部届、出して来たんだけど、何か聞いてる?」
俺も呼ばれて、のこのこ、行くと、小声で、そんなこと言われた。
「はあ?」
「まあ、昨日の今日だからね。『預かる』つって、今日のところは、お家に帰した」
「明日、話します」
「うん。そうしてやって」
ぽんぽんと、鹿尾先生に俺は背中を叩かれた。なので、1年に、じゃない2年に、守谷のクラスを聞いて、次の日、昼休みに行った。フツー、退部を引き止めるのは、部長の砂川の仕事だよね?って思うけど、守谷、砂川と仲、悪いからなあ…。2年の誰かが、じゃねえ、3年の誰かが話しに行くとなると、俺しかないよな…――学年が変わったばっかなんで、ついつい2年とか、1年とか言っちゃうな!
2年3組の教室を覗き込み、守谷を探す。――あ、いた。何だ、元気じゃね?フツーにクラスのヤツと話してる。
う~ん。あんなカンジなら、今日、何事もなかったかのように、部活、来るかも。先輩としては、退部届のことなんか、何にもなかった顔しといた方がいいな。
そう思って、俺は守谷と話さずに、自分の教室に帰った。守谷、3組ってことは、理系クラスなんだな~。すっげー。
3年1組。国公立・文系クラス。窓際、一番前の俺の席には、優歌が座って、スマホ見てた。
うちの高校は男女混合名簿で、一学期は席が出席番号順だから、集中的に女子ばっかとか、男子ばっかとゆー並びになることもあって、棚田優歌は、前後左右、女子に囲まれてて、「ハーレム席」と喜んだのは、一瞬だった。自分の存在、完全スル~されて、前後左右で女子たちが話してたら、自分の席にいたくないよね~。優歌は、ガタイもよくて、顔も、どちらかというと怖い方で、声も低いので、話しかけやすい見た目ではない…
俺は机の上に座る。
「守谷、」
優歌がスマホから顔を上げて、俺に聞く。
「どうだった?」
「ううん。ゼンゼン元気だったよ。今日、フツーに部活、来んじゃね?」
「そっか。そんならいいけど」
優歌ちゃんは、心配顔。
2年ん時は、バスケ部4人・有生蓮、俺、今宮想太、砂川爽太、山戸紡(あいうえお順)が、同じクラスだったんだけど、3年になって、有生と砂川は、私立・文系クラス行って、紡は専門校・就職クラス行って、俺は、棚田優歌と同じ、国公立・文系クラスになった。
「俺、守谷が、あんなやる気、出すとは思わなかったなあ~。1年ん中で、一番、スカしてたじゃん。先輩の俺らよりバスケ上手くて、バカにしてるっつか。」
優歌が心配顔のまんま、後輩をディスる。
「あはは~。あったね。そゆとこ、あった」
「そんなヤツが、意外とメンタル弱かったな~」
言いながら優歌は、俺の股間に顔を埋めた。ここに顔、埋めていいのは、晴だけだから!!俺はバスケットボールを片手で掴んで持てる手のひら広げて、ガシッと優歌の頭を掴んで引き上げる。
「たった4点、何で追いつけなかったかな…」
つぶやく優歌の頭を、俺はヘッドロックして、ぐしゃぐしゃ、撫でた。トゲトゲ立っちゃう固い髪の手触りが、今日も、気持ちいいぜ。
――でも、守谷は、部活に来なかった。
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