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(回想)10月 新人戦
去年の夏休み、そんなことがありまして、守谷は砂川にポイントガードの「ポジション奪う」宣言したんだよね~。
守谷と同じ中学の陸奥に、こそこそ聞いたら、元々、守谷のポジションってPGで、「ポジション争い、めんどいから、3年になるまで待つ」って言ってたんだって。そんで、仮入部した時の自己紹介で、
「陸奥奏汰です。中学では、パワーフォワードやってました」
って、陸奥が言った後に、
「守谷聡太です。パワーフォワードです」
って、守谷、テキトーに言ったんだそうだ。
後輩に「ポジション奪う」宣言されて、砂川くんは、「やりたいなら、やれば?」っつって、おへそ曲げちゃって、試合形式の練習、始めると、帰るようになっちゃって。
顧問の鹿尾先生が見るに見かねて、第1・第2クォーターは守谷、第3・第4クォーターは砂川が、PGやることになった。でも、砂川、守谷が出てる第1・第2クォーター、声も出さない、応援もしない、コートの外、大股開いた体育座りで、沈黙の帝王として、君臨してる態度を見れば、受け入れてないよね~~。
第1・第2クォーターは守谷が、3ポイントシューターの俺を軸に、攻撃を組み立ててくれて、第3・第4クォーターは砂川が、センター紡を軸にして、幼なじみコンビで攻撃を組み立てて、攻撃パターンに幅も出て、いいんじゃね?いいんじゃね?って、俺らは思ってた。
でも、だが、しかし、けれど、10月の新人戦。俺たちは、1回戦敗退で終わった。
「負けたけど、今回、すごーく、わかったことがあった、いろいろ。夏休みの練習試合、砂川にイジワルされなきゃ、あのまんま、俺が出てたら、勝ってた。って、思ってた。でも、今回、第1、第2クォーター、守谷がポイントガード入って、俺を軸に、攻撃、組み立ててくれて、これだよ!これ!俺がしたかったバスケは、これ!って、思った。でも――……やっぱ一人を軸にすると、攻撃がワンパターンになっちゃって、読まれやすくなんのな。俺まで、ボール回って来なくなっちゃって…。第3、第4クォーター、砂川がPGやって、やっぱすごいと思った。砂川には、ショットまでの道筋が見えてんだよな。俺らが、砂川の思い通りに動けてれば、勝ててた」
「お前ら、第1、第2で、はしゃぎすぎて、ダルダルなんだもん。俺に、ゼンゼン付いて来らんねえの」
「そりゃお前、ベンチで、声も出さず、応援もせず、ふてくされて、体力温存してたんだからな!!」と、砂川に俺は言ってやりたかったが、ガマンした。
新人戦敗退の翌日。放課後練習の後、部室で着替えてる時に、
「モ×バーガーおごるから、1対1で話したい」
って、俺、砂川に言った。俺の視界の端で、1年たちが、ガッツポーズしてやがった。
歩いて行く俺と砂川の後、1年だけじゃなく、2年も、こそこそ、付いて来やがって、×スの店内2階で、ぎゅうぎゅうで、番号札、立てて、できあがりを待ってます。お前ら全員、後でレシート、俺に回してくんじゃねえぞ。
「砂川の思い通りに動けるように、俺ら、日曜日も部活やるから」
俺が言うと、店内に、ぎゅうぎゅうの1年、2年が一斉に立ち上がり、最初から席がなくて、立ってたやつもいるけど。大声、上げた。
「マジでっ?!」
「マジか!!」
「今宮先輩!!」
「やった~!!」
びっくりしちゃってるフツーのお客様、ほんとすんません。高校にクレームを入れないことを祈る!!
砂川が、ガタッとイスを立った。俺は、もうびくびくしなかった。こいつが、ここから逃げ出したって、バスケ部、辞めたって、「お前のせいだ」って言われたっていい、覚悟はついてた。今日、負けた瞬間に。今のまんまじゃ、勝てないってわかったから。
「バッカじゃねえの。マジでやって、何かなるの?マジでやって、勝てないのと、マジでやらなくて、勝てないのと、結果、いっしょだろ?マジでやった分、ムダじゃん」
うひょおう。砂川の、めっちゃ正論、キターーー!!俺、バカなんで、ゼンッゼン!反論できな~い。砂川は、周りを見回した。他のヤツらもバカばっかなんで、誰も反論できまへん。
「お前ら、そーゆームダなことしてえっつの?」
あはは。みんな、うなずいちゃった。
「くっだらねえ…」
吐き捨てて砂川は、どさっとイスに座った。
砂川は、何でもハッキリしてるから、何つうのかな…ごにょごにょ、自分の意見を言えないヤツが多い3年の俺たちには、いい部長だったんだよ。――そうそう。カルガモみたいな。部長・砂川の後を俺たちは、よちよちよちよち、付いて行けばよかった。
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