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「あの、すみません! 私、この猫、飼いたいです! 連れて帰りたいです!」
その時、病院のドアが開いた。
「すみませーん。あ、よかった。二人とも居た。」
ほっとした顔の円香さんだ。雨に変わり、車が出せそうなので迎えに来てくれたようだ。そして、診察室から男性が出てきた。看板の人ではあるが、コミカルさはなく、とても落ち着いた印象の男性だ。
「院長の南都です。まず猫ちゃんの状態ですが、低体温症に陥っています。あまりいい状態とは言えません。猫の平熱は、……。」
先生の説明は続くが、声が耳に入ってこない。遠くの声を聞いているかのようだ。
「……、温めた点滴も併用して、体の中からもゆっくりと体温を上げ、様子を見ていますが、平熱まで体温が戻るまでは、病院で診る必要があります。今晩は入院となります。もし万が一、急変することがあればご連絡いたします。」
そこまで話すと、年配の女性が院長先生に、控えめな声でいきさつを説明した。
「大変、失礼しました。保護猫でしたか。この後のことは、病院側で行いますので、ご安心ください。受付も終わっているようですし、お帰りいただいて大丈夫ですよ。」
「あの、私! この猫、飼いたいです! 今日は連れて帰れなくても、飼ってもいいですか!」
驚いた様子で、円香さんが私を見た。
「優しいんだね。でもね、まずは本当の飼い主を探してみようね。若いけど、もう大人の猫だし毛並みも悪くないから、どこかで飼われていた猫だと思うんだ。」
院長先生は続けた。
「もし、本当の飼い主が見つからなくて、迷い猫だったとしても、君の家の人がいいって言ってくれないと飼えないよね? あと、猫は法律的には『物』なんだ。勝手に連れて帰っちゃうと、罪になっちゃうこともあるんだ。」
「でも!」
「まずは家の人とよく相談してごらん。もし飼い主が見つからなくて、君の家で飼ってもいいってことになったら、必ず連絡するから。」
その後、院長先生と円香さんが今後のことを確認して、いったん私たちは帰ることとなった。
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