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どのくらい経ったろうか。ふいに優花の母親が言う。
「翠ーちゃん、今日はお母さんたち遅いの? もうすぐ五時だよ。雪も強くなってきたし、帰れるうちに帰りなさいね。心配だから優花、送って行ってあげて。」
時計を見上げる。今、五時五分前だ。
「えー! なんでぇ! あたしが翠月のうちに行って帰って来る間に雪に埋もれて遭難したらどうするのぉ。」
「そこまでは降ってないし、優花なら大丈夫! 自力で帰って来られる! 夕飯のカレーライス、コロッケつけてあげるから。」
「あたしもうすぐ高校生だよ! コロッケで釣れるとでも思ってんの? どうせならカツがいいー。」
二人のたわいもない親子喧嘩が始まる。私はこの空気感が好きだ。お互いに信じているからこそできるんだと思う。
「あ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます。一人で帰れます……。」
「って、いうのは、うっそぉー。送ってくよ。まだ話したいこともあるしねー。」
優花がかぶせるように言う。
「ありがとう。あ、ちょっとだけ。これだけ、やらせて。」
シャッフルしたてのタロットを無意識に、丁寧に並べる。
――過去・現在・未来。
――「18-月(正位置)」「10-運命の輪(正位置)」「聖杯の3(正位置)」
リーディングは帰ってからにしよう。私は、家路についた。
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