第一話 白昼夢

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第一話 白昼夢

 帰り道、優花とこれからの高校生活のことをあれこれと話しながら、ゆっくりと慎重に歩いていく。雪は道路にうっすらとつもり、歩道は真っ白。寒いはずなのに、でもなぜか暖かさを感じる。雪って不思議だ。今は世界中で二人しか存在しないような静寂――。時折、通る車の音で、ふっと我に返る。  その時、白昼夢だろうか、強烈なイメージとしてタロットカードが目の前に現れた。 ――「18-月(正位置)」「10-運命の輪(正位置)」「聖杯の3(正位置)」 838572b4-e735-423d-a04c-52b2ac5b90fd そして、確かに聞こえた。 「た す け て」 私は立ち止まった。頭の中はパニックになっていた。 「たすけて……って。」 「え? なーにー? 翠月(みつき)、どうしたー? 遅いよぉ。」 私より五、六歩先を行く優花が大きな声で振り返る。 「助けてって! 助けてって聞こえたの。」 絞るように、訴えるように私は言った。 「え? ほんと? どのから? どこから聞こえたの?」 「分からない、聞こえたのかどうかも分からない。」 「え? 何? どっちの方向から聞こえた? 前から? 後ろから?」 「間違いかもしれない! 聞こえてないかもしれない! きっと間違えだ!」 「何? 何? 翠月(みつき)? どうしたの? 落ち着いて!」 「私にしか聞こえない声! でも違うかもしれない。」 「違うって何が? ってか、違ってていいよ! むしろ違ってたら『良かったね!』でいいから! とにかく探そう。もし、本当だったら、探さなかったこと、絶対後悔する。」 「でも……。」 「とにかく探そう! どっち?」 優花が、励ますように強い口調で私の肩をつかんだ。 「分からない。どうしよう。」 「よく思い出して! 翠月(みつき)。ってか、……落ち着け、……落ち着け、あたし。もしかしたら、また聞こえるかもしれない。……一分黙れ、あたし!」 優花が自分に言い聞かせるように、目を瞑り、口元をぎゅっと閉じた。
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