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「優花! つかんだ!」
「絶対、離さないでね! あ゛ーーーー!」
まず、優花が足を踏ん張り、もう一度、枝にきつく腕を回し、私たちの方を見ながらベルトを引っ張り上げようとする。私も斜面を這い上がろうと足を滑らしながらも、優花を目指す。
「はぁ、はぁ…。」
何とか木の下にたどり着き、猫を見る。ぐったりとして動かない。目も閉じている。息は、……している! 猫を脇に抱え、木の柵を乗り越えた。
「えっと、えっと、救急車! えっと、ちがう、病院、病院、動物病院。一番近いとこ。あ゛ーーもーー。」
優花がスマホで検索してくれている。私は自分の白いマフラーを外し、猫を包み温めようとマフラーの上から擦り始めた。マフラーがだんだんと灰色に染まっていく。
「手が震えて、……。聞いた方が早いな! 翠月も、一緒に聞いてて!」
スピーカーになったスマホから円香さんの声が響いた。
「今どこにいるの?! 帰ってこないから心配するじゃない!」
「ごめん! いま桜ヶ堀運動公園、翠月も一緒。翠月も一緒に、聞いてるから。猫を見つけて、お母さん助けて! なんか、猫、死んじゃいそう。お母さん、ここから一番近い動物病院、教えて! 早く!」
「猫……?! 分かった、ちょっと待って。運動公園でしょ……、近くに商店街があった……と思う。何商店街だっけ……。あった! 今どこ?」
「だから、運動公園!」
「違う! 運動公園のどの辺りにいるの?」
「えっと、駐車場の近くの堀。」
「そしたら、二人ともよく聞いて。駐車場を抜けると道路に出ます。その道路を右に、道なりに進みます。すると左手にコンビニが見えてきます。コンビニの交差点をさらにまっすぐ進みます。しばらく行くと、松ヶ丘商店街っていう商店街に出るから、そこに『なんとか病院』があったはず。目立つからすぐわかると思う。気を付けて。何かあったら必ず連絡して!」
「ありがとう!」
「急ごう!」
「うん!」
私たちは、傘をさすのも忘れ、「大切なもの」を抱え、また走り出した。広すぎる駐車場を、長く感じる道のりを、息を切らしながら……。いつしか、雪は雨に変わっていた。
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