16 隠れ家での朝

1/1
839人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ

16 隠れ家での朝

 その後は特に夢を見ることもなく、私は眠りに就くことが出来た。 どれくらいの時間が流れたのかは分からない。けれど、私はふと目が覚めた。 瞼をこすりながらベッドから起き上がると、辺りに美味しそうな匂いが漂っていることに気づいた。 「何の匂いかしら……?」 ベッドから下りて、部屋を出ると既にテーブルには席に着いたラルフとエドモントの姿があった。 「あ、おはようございます。ユリアナ様」 「お目覚めになりましたか?」 エドモントとラルフが交互に声を掛けてくる。 「ええ、起きたわ。ところで……今は何時なのかしら?」 ここは深い洞窟の中に作られた隠れ家。当然陽の光が差すことは無いので、時間がさっぱり分からない。 「今は午前7時を過ぎたところですね。朝食にしようとしていたのですが、お二人はよくお休みになっていたようなので、先に頂いておこうかと思っていたのです」 ラルフが答えた。 「そうだったのね。でも、もう大丈夫。起きられたから」 「それでは我々と一緒に食事にしますか? グリーンスープを作ったのですよ」 「ありがとう、エドモント。でも、私達だけ先に頂くのはジェイクさんに悪い気がするの。少し部屋に行って彼の様子を見てくるわ」 「分かりました。では我々も待っていますね。どうぞ行ってらして下さい」 「分かったわ」 エドモントに返事をすると、私はジェイクの部屋へ向かった。 「ジェイクさん……?」 部屋を覗くとベッドに横たわっているジェイクの姿があった。眠っているのだろうか……? ベッドに近づいていくと、唸り声が聞こえてきた。 「う……うぅ……」 見ると、ジェイクは額に汗をにじませながら苦しげに唸っている。 「ジェイクさん? 大丈夫ですか?」 慌てて声を掛けながら、身体を揺すると彼は薄目を開けた。 「う……」 「大丈夫ですか? 酷くうなされているようでしたけど……?」 すると、何故かジェイクはベッドに横たわったままじっと私を見つめ……ポツリと呟いた。 「ミレーユ……?」 「え……?」 「良かった……助かってくれて……」 虚ろな目でジェイクは私を見つめ……右手を伸ばして私の頬にそっと触れてきた。 「ジェイクさん……? ミレーユって誰ですか?」 「え……?」 私の言葉にジェイクは目を見開いた。 「す、すまない! 寝ぼけていたようだ!」 慌てて飛び起きると、ジェイクは私を見て苦笑いした。 「いえ、それは大丈夫ですけど……それより、エドモント達が朝食の用意をしてくれたのですが……どうされますか?」 「ああ、先に戻っていてくれるかな? 俺も準備が出来たらすぐに行くから」 「はい、分かりました。では先に行ってますね」 それだけ告げると、私は部屋を後にした。 それにしても今のは一体何だったのだろう? もしかすると、ジェイクは……この身体の持ち主のことを知っていたのだろうか……? けれど、何故かそのことをジェイクに確認する気にはなれなかった――
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!