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2 嘘で塗り固められた話
「その戦争犯罪とやらはどのようなものか知っているか?」
エドモントが尋ねる。
「さぁ……俺もあまり詳しくは知らないが、ベル……何とか言う公爵家が王族の転覆を図ろうと、クーデターを起こしたらしいが失敗したそうだ。けれど王家は戦争で手柄を立てれば、その罪を許してやろうと約束したらしい」
その言葉にエドモントの眉が険しくなる。しかし、店員はその事に気づかない様子で言葉を続ける。
「しかし、公爵家はそれすら裏切り、敵国に情報を売ったせいで、この国では兵士を含め、多くの人々が命を失った。そこで国王は公爵家を裏切り者として処分したのさ。そして公爵家に仕えていた騎士たちは全員捕らえられて牢屋行きさ。本来ならもっとも危険な最前線に彼らは送られるべきだったのかもしれないが、裏切りを恐れたんだろうな。国王は」
腕組みしながら説明をする店員の話に私はただ耳を疑うばかりだった。
ありえない……でっち上げも甚だしい。フードの下で悔しさのあまり、唇を噛み締めた。
「……悪かったな。仕事中に引き止めちまって」
「いや、それじゃごゆっくり」
男性店員はそれだけ告げると去っていった。
「くそっ! なんって話だ……!」
エドモントは余程腹に据えかねたのか、拳を握りしめてテーブルを叩いた。
「……あの話では我々は完全に罪人じゃないですか! だから戦争犯罪者にされてしまったのか……」
ラルフは悔しそうに唇を噛みしめる。
「エドモント公爵家が王族に反旗を翻したのは知っていたが……まさか、戦争犯罪者として濡れ衣まで着せられていたとは思いもしなかった」
ため息をつくジェイク。
「……私は……嵌められたのかもしれないわ」
ポツリと言葉が漏れる。
「ユリアナ様……」
エドモントが鎮痛の面持ちで私を見る。
「クラウス王子は出会ったときから、私のことを毛嫌いしていたわ。婚約中、一度もエスコートしてもらったことも無ければ、パーティーのパートナーにしてもらったこともない。いつも彼は他の女性と参加し、私は一人で出席していたのだから」
その言葉にジェイクは目を見開く。
「何だって? そうだったのか? 信じられないな……」
「確かに、クラウス王子の仕打ちは酷かった……クソッ! ユリアナ様になんて酷いことを……!」
エドモントが再びテーブルを叩く。
「けれど仮に今の状況を起こすことを想定して、ユリアナと婚約したからといって、この国にどんな得があったというのだ? 現に今この国は『タリス』王国の属国のような扱いを受けて『モルス』と戦争しているんだぞ?しかもかなり状況は不利だと言うのに」
ジェイクが周囲の様子を伺いながら声をひそめる。
「今のシュタイナー家はどうなっているのかしら……」
「やはり、仲間を集めたら城へ行くべきではありませんか?」
ラルフの言葉に、私達は頷くのだった――
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