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考古学研究所(現在)
天気は快晴。帝都大の考古学研究所に、柔らかな春の光が差し込む。考古学研究室とよく間違われるが、研究所は帝都大学に寄付された、別の機関だ。古い研究棟を改築して作った研究所なので、ホテルのような美麗な部分と、古い教室の名残のような、木造の部分が奇妙な形で融合している。
中庭は豪華で、トマトをはじめとした食用野菜、シダ植物やセリ、ナズナといった食用植物、銀杏の木が植わっている。
平岩と山田は、研究所に博士研究院として7年間、在籍している。二人の頭脳を認めた機関、と言えば耳に心地よい。が、実際は正式なポストが無く、働き口が無い二人に大学がしぶしぶ用意した席だ。
平岩は地位が低く、予算も少ない中、それなりに楽しく生活していたが、どうやら山田は違うようだ。コーヒーブレイクの時、山田が口を開いた。
「ここでは好き勝手やらせてもらえるけどさ、実際、どうよ。1年契約で、このまま定年まで残れる保証はどこにもない」
床屋に行くのが面倒くさく、長髪をなびかせた山田は、深いため息をもらす。
「そうだなあ」
平岩はコーヒーをすすった。今日のコーヒーは、豆を入れすぎたのか、苦い。人生もそんなものだ。苦い。
好きなことを仕事にできるのは嬉しいが、現実を見れば、常に契約を切られるかどうか戦々恐々とした身分なのだ。
世話になった考古学研究室の教授は退官。新しく就任した別大学出身の教授は、研究室のメンバーを自分の出身大学系列の人材で固めてしまった。平岩も山田も、帝都大で正規のポストを得ることは不可能だろう。
山田は最近結婚した。子供も生まれるらしい。家庭を背負うと、現在の給料では苦しいし、身分は不安定。転職が難しい年齢にもさしかかっている。
「ある私立大学の医学部、そこの法医学教室の助教になるか、って話はきてるんだ」
「へえ。初耳」
平岩は驚き、慌ててぬるくなったコーヒーを飲み、表情を隠した。山田には転職先があるのか。
「考古学で培ったコンピューターモデリング。それを遺体に適用しないかというお誘いだ」
なるほど。古生物の復元法を極めている山田ならば、遺体の顔形を復元できるプログラムを組むには適任かもしれない。
「でもさ、医学部って、結局医師免許が無いと上にあがれないシステムじゃん。万年助教か、良くて退官前に特任准教授とかが限度だろ。俺、偉くなりたいとはそんなに思ってないけれど、研究が生かせない職場って、行きたくないんだ」
珍しく山田が沈鬱な表情を浮かべた。元々は古代のロマンを持って始めた研究だ。平岩には、山田の葛藤が手に取るように分かった。
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